4月になり、学校でも会社でも新しい方々が入り、フレッシュな風が流れているのではないでしょうか。今回はがんの緩和治療について書こうと思います。ペット医療の分野でも、がんの治療は外科、抗がん剤治療、放射線療法の3大治療がメインです。2月にも書きましたが、メインの治療を始めた時点から、緩和治療を行った場合、行わないより長生きできることが分かっています。動物も飼い主さんも辛いがん治療。早くから緩和治療を進めた方が良いかと思います。もう少し詳しく書いてみます。
がんの緩和治療の3つの柱は、痛みの緩和、栄養のサポート、苦しみの緩和です。愛するペットがガンになってしまった時、飼い主さんに言われるのは「この子が痛くないように、苦しくないようにしてください。食べれるようにしてください」です。まさに飼い主さんが望まれているのは緩和治療かもしれません。私たち獣医師はエビデンスに基づいて、できるだけ長生きができるように3大治療を勧めるわけですが、もっと積極的に緩和治療を進めていくべきかと思います。
まずは「痛みの緩和」。痛みがあると食べなくなったり、眠れなくなり体力を消耗してしまいます。痛みの程度は、感じ方や、がんが発生した部位、周囲の損傷程度によっても違います。治療は鎮痛剤や痛みを緩和する目的の外科手術、化学療法、放射線療法などを併用することもあります。鎮痛剤には麻薬性鎮痛剤のオピオイド、非ステロイド性抗炎症剤などが使用されます。麻薬と聞くと中毒など怖いイメージがあるかと思いますが、適切な使い方をすると安全で効果が期待できます。特に背中に貼るタイプのものは使いやすいかと思います。非ステロイド性抗炎症剤は痛みを緩和するだけでなく、解熱、炎症を鎮めてくれ、さらに免疫調整作用もあります。ただ長期に使用すると胃腸や腎臓に悪影響を与える場合があります。
次に「栄養のサポート」です。がん細胞は、体から多くのエネルギーを奪い、筋肉量も減ってしまいます。このため診断された時からしっかりと栄養管理して体重を維持することがとても大切です。がんを患うと食欲不振になる子が多いです。まずは食事に一工夫することお勧めします。ウェットフードを冷たいままではなく、人肌程度に温めることにより香りも立ちますので食べることがあります。また口元まで持っていったり、食べやすいように山高に盛り付けしても良いかもしれません。食欲のきっかけ作りとして食欲増進剤を使うことも良いかと思います。強制的に食べさせる場合もありますが、ペットは結構嫌がる子が多いので、比較的早い段階でチューブを装着して流動食を与えることが多いです。ルートは鼻、食道、胃はあります。それぞれメリット、デメリットがありますので獣医師に相談して装着するのが良いでしょう。
最後に「苦しさの緩和」。がんが進行すると腫瘍がリンパ節や肺に転移し、胸水や腹水が溜まって、呼吸が苦しくなってしまうことがあります。とても厳しい状況ですが、少しでも苦しさを緩和するために胸水や腹水を抜く場合があります。また胸水が貯まる場合は呼吸がスムーズに行われないことが多いのでいつも体が低酸素状態になっています。ご自宅に酸素ボックスを用意されるのも良いかと思います。レンタルもありますので、病院に相談してみてください。
■著者 アース動物病院 院長 上田 広之 氏