ペット医療コラム

【vol.180】ペットのがんの治療について〜治療プランを組み立てる〜

寅年の2月、新型コロナ感染症第6波を迎えて緊張感が続いていますが、基本的な感染対策は徹底して、1日でも早く収束するよう、お一人お一人気をつけていきましょう。
今回も「猫のがん」という本を題材にして、昨年末に行なわれたZOOMセミナー「第4回動物医療グリーフケアフォーラム」から得られた情報と合わせて「ペットのがんの治療について」皆様にお届けしようと思います。
前回の12月号では、がんの早期発見について書きました。がんが疑われましたら、次に診断に向けて、病理検査(細胞診検査や病理組織検査)を行い、どんな種類のがんか特定します。その後、転移や広がり状況や併発した病気がないか確認していきます。そしていよいよ治療へと進めます。
がんの治療を始める前にまず考えておかなければならないことは「治療の目的」です。がんは完璧に治すことが難しい病気ですから、治療内容は何をゴールとするかによって変わります。病気の進行状態や飼い主さんの考え方・家庭の事情によっても変わります。どんな些細なことでも獣医師に相談し、飼い主さんとペットにとって、一番いいと思う、納得のいく目的・方法を見つけてください。治療目的は大きく2つに分かれます。
一つはがんと積極的に闘って完治を目指す「根治療法」。もう一つはがんと闘わず共存する「緩和治療」です。根治治療は、がんそのものを消し去ることを目指し、外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤など)、放射線療法などを単独もしくは組み合わせて行います。治療によって高い効果と年単位の延命が期待される反面、リスクを伴ったり、飼い主さんの負担が大きくなる場合があります。一方、緩和治療は、がんに関連する痛みを取り除いたり、栄養サポートなどをして生活の質(QOL)を高めることが目的です。リスクは低いのですが、得られる効果も穏やかです。緩和治療を選択したときの平均的な生存期間は数ヶ月になります。この二つの治療について、従来はがんの治療ができなくなってから緩和治療に移行するという考え方でしたが、現在では、がんと診断されたときから、根治治療を目指しながらも、痛みや苦痛を取り除く緩和治療を並行して開始するのが主流となってきました。緩和治療を併用した方が長生きする報告も発表されています。鎮痛剤も栄養補助食品もさまざまな改善がなされ、副作用が少なく、長期に使用可能な鎮痛剤が開発されたり、食欲不振のペットに対して食欲が出るような薬の開発、食べさせやすいペースト状や液状の食事もできてきています。名前を呼びながら、撫でててあげることも痛みの軽減効果、リラックス効果があります。また、がんになったからと言ってもペットたちはそのことを認識できません。がんになって家族の態度が変わることで、ペットはとても不安になるそうです。なかなか難しいことではありますが、いつも通りの態度でペットと寄り添ったり、楽しい思い出のある場所に行ったりすることも緩和治療の一つになります。「お別れの日が来るまで、穏やかに過ごせるように」していきたいですね。わからないことがあれば、動物病院のスタッフに相談してみるのもいいでしょう。

■著者 アース動物病院 院長 上田 広之 氏

  2022/04/04   gra_ad
≪ 【vol.179】「猫のがん」について  |  【vol.181】がんの緩和治療について ≫