ペット医療コラム

【vol.179】「猫のがん」について

今年も師走を迎えました。コロナ禍で様々な影響を受けた約2年間。2回のワクチン接種を終えた人が7割を超え、新規感染者も減り、徐々に日常が戻りつつあります。第6波が来ないように基本的な感染防御対策は引き続き行っていきましょう。
さて今回は「猫のがん」について書こうと思います。この10月に猫の本専門の出版社のねこねっこから猫の「がん」が出版され、一般の方向けで分かりやすい内容になっていたので、そこからエッセンスを皆さんへお届けしようと思います。猫のがんで最も多い「乳がん」については本コラムNo.167号で書きました。どうぞ参考にしてみてください(グラコムHPにバックナンバーが載っています)。ヒトでは2人に1人が「がん」にかかるとされていますが、猫でも死因の約1/3が「がん」とのデータがあります。室内飼育が多くなり、交通事故や感染症にかかることが減り、家族の一員として飼育され、最期を迎える日まで大切にされているおかげで長生きをするようになりました。最近のデータですと日本の猫の平均寿命は15.45歳です。加齢とともに(一部年齢に関係ないものもありますが)「がん」になる可能性が高くなりますが、少しだけでも今回のコラムがその「備え」になればいいと思います。良性腫瘍であれば何も心配ないように思えるかもしれませんが、猫は犬より悪性のことが多く、今は良性でも将来悪性に変わる可能性もあります。「がん」の原因は様々な要因が絡み合っているため、確実に予防することは難しい病気です。しかし中には発生率が高くなる要因を下げることができればリスクを減らせるものもあります。よく知られているのは、犬にも当てはまるのですが、乳がんの発生とホルモンの関係です。早めに不妊手術受けることで乳がんの発生率が低下することが分かっています。また、タバコの煙によるリンパ腫発生リスクを下げるために、猫に受動喫煙させないことも、「がん」の予防の一つになります。白い被毛をもつ猫は、扁平上皮癌が耳や鼻にできやすいですが、要因の一つである紫外線を避けてあげると予防になる可能性があります。ヒトと同じく、「がん」の早期発見が早期治療につながります。早い段階で見つけることができれば、治療の選択肢も多くあります。逆にかなり進行してから動物病院に行くと、できることは限られてしまいます。では早期発見するにはどうすれば良いでしょうか。体の表にできるしこりや鼻血や血尿が出たりすると気付きやすいですが、それ以外の兆候に気付くのは難しいかと思います。ですがどの「がん」にも共通するのが体重減少です。加齢や他の病気でも体重は減ることがありますので、「がん」だけのサインとは限りませんが、食事量を減らしていないのに痩せてきたら動物病院の診察をお勧めします。どうしても動物たちは痛みを我慢したり、隠す傾向がありますが、具合が悪い時には不調のサインが出てます。飼い主さんがそのサインにいち早く気づくことが、がんに限らず、あらゆる病気の早期発見につながりますので、ふだんから自宅での健康チェックを習慣化しておきましょう。どこまでやれば良いかと不安に思う方もいらっしゃいますが、日頃の動きに変化がないかとか、遊ばなくなったとか、スキンシップの中で何らかのしこりを見つけたとか、呼吸が早い、便の色が変わったとかいつものお世話の中で気づくことが多いです。それでもご心配な方は少なくとも1年に1回は動物病院で健康診断を受けると良いでしょう。動物病院スタッフにご遠慮なく、相談してみてください。

■著者 アース動物病院 院長 上田 広之 氏

 

  2022/04/04   M I
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