師走を迎えました。今年はみなさんにとってどんな年だったでしょうか?新型コロナ感染症が昨年5月5類感染症になり、今年4月から通常対応に完全移行し行動制限がなくなりました。インフルエンザなども流行る季節ですので基本的な感染対策をしつつ、対面での交流も楽しみたいものです。
愛犬と散歩したり、遊んでいる時、急に後ろ足をつけなくなったりしていませんか?それはもしかしたら膝の痛みが原因かもしれません。犬には膝に痛みを引き起こす病気がいくつかあり、犬種や遺伝などによってかかりやすい病気が変わってきます。以前も少し書いたかと思いますが、愛犬が膝を痛そうにしているときに考えられる代表的な病気を2つ挙げて説明してみましょう。またコロナと関係しますが、感染対策で出社できずリモートワークが増えて、話し相手や癒しを求めてペットを飼い始め、2021〜2022年にかけて新しく子犬を飼い始めた方が増えました。またコロナ前から今も続いていますが、純血の小型犬同士をかけ合わせてミックスとして販売されることが多くなっています。膝の病気は遺伝が関わることが多く、素因をもった犬種同士のかけ合わせで病気を持った小型犬が多くなったのを感じています。
代表的な膝の病気の一つが膝関節の中にある前十字靭帯断裂です。雪で足を取られたり、滑りやすくなるため冬に発生が多くなります。また室内で過ごすことも多くなり、ボール遊びやソファーから降りた時になるケースも多くみられます。原因は靭帯そのものの「変性」と「強力な外力」です。人と違い「変性」の割合が多いとされ、遺伝的・免疫学的・形態的要因などが関与していると言われています。靭帯は一度断裂すると再生することはなく、放っておくと痛みは持続し、関節炎を起こし膝全体が損傷していくこととなります。早めに動物病院を受診されることをお勧めします。動物病院では身体検査、レントゲン検査、膝の超音波検査などを行います。犬の体重や性格、靭帯の損傷具合、持病の有無により治療方針を飼い主さんと一緒に決めていきます。温存療法やPRP(多血小板血漿療法)を行い関節を約1ヶ月間固定する方法もありますが、多くは外科手術が必要となります。手術方法には大きく2通りあります。1つは人工靭帯を用いて膝関節の外側から固定する方法(関節外法)です。数年前まではこの方法が主流でしたが、手術後に長期間の安静が必要となること、約2割は膝関節の不安定性が消失しないとも言われています。もう一つが関節に接している下腿骨(脛骨)を特殊な器具で切り、プレートをあて固定し、大腿骨に対する角度を調整することで膝関節全体の安定化を図るもので、TPLO法と言われています。この方法は成績が良く、術後の安静は必要なく、半年後にはほぼ正常歩行ができます。今はこちらの方法が世界基準になっています。ただし、専用の器具、器械と専門的なスキル習得が必要です。数年前から各地でセミナーが開催され、今年は北海道でも行われました。オホーツク管内でもこの方法が主流になってくるかと思います。犬の前十字靭帯断裂は「変性」が原因の場合が多いため、反対側も発症する確率は約5割あります。関節や靭帯に良いとされるサプリメント服用や激しい運動を避けるなどの注意も必要です。
紙面が足りなくなったので、膝を痛くするもう一つの「膝蓋骨の脱臼」については次回書くことにします。今年一年間コラムを読んでいただきありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
■著者 アース動物病院 院長 上田 広之 氏