ペット医療コラム

【vol.81】去勢・避妊手術で防げる腫瘍〜乳腺・精巣・卵巣・子宮の腫瘍〜

7月になり、季節は夏。低温と6月の雹の影響が農作物に被害を与えているとのこと…心配です。 収穫の秋まではたいへんなご苦労が続くかと思いますが、報われるよう祈っております。 また、東日本大震災で被災した動物や動物病院に対する義援金の協力を、本当に多くの方々からいただきました。 北海道獣医師会を通して、既に救護センターや被災獣医師会に届けられていると報告を受けています。ご協力ありがとうございました。
今回は雄と雌の生殖器の腫瘍のことを書こうと思います。2009年8月にも書きましたが、再度書きます。 というのも最近これらの器官の腫瘍の来院が多く、重症な場合が多いからです。 これらの腫瘍は若い時に手術しておけば予防できるはずなのに、手術されていないのは飼主さんの主義や考えに寄るところが多いのですが、我々が情報を発信するのが足りなかったと反省しています。
まず雄ですが、ペット屋さんから購入する前に精巣がちゃんと正常な場所にあることを確認して下さい。 精巣が陰嚢内に入っていない場合(潜在精巣)は、正常と比べ8倍も腫瘍になる可能性が高いと言われています。 内股のソケイ部にあることもありますし、お腹に残っている場合もあります。 精巣は陰嚢内で体温より低い場所にあって初めて正常な機能を発揮します。 潜在精巣は精子をつくる機能もありませんので、早めの手術をお勧めします。
また、正常な場所にあっても中年以降に精巣腫瘍になることがあります。 精巣腫瘍のタイプはセルトリー細胞腫、精上皮腫、ライディッヒ細胞腫が大部分を占めます。 転移することは比較的少ないですが、腫瘍からエストロジェンという雌性ホルモンを産生するタイプがあり、腫瘍を長期にわたり放っておくと、そのホルモンの影響でエストロジェン中毒になり、雄なのに乳腺は張ってきたり、脱毛したり、ペニスが小さくなったりします。 また、骨髄(血液をつくる場所)抑制にもなり再生不良性貧血になります。 ここまで進行しますと手術をおこなっても貧血は治りません。つまり延命処置しかできません。 この他に去勢手術をしておくと予防できる病気として、前立腺肥大、肛門周囲の腫瘍、会陰ヘルニアなどがあります。
次に雌ですが、よく知られているのが避妊手術の時期と乳腺腫瘍との関係です。 生後1年、もしくは最初の発情後までに避妊手術を行なうと、乳腺腫瘍の予防効果は犬も猫も約9割あります。 その後は徐々に予防効果は落ちていきます。 乳腺腫瘍は犬の場合は約50%が悪性。
猫は約90%が悪性ですので、子どもを作らない場合は積極的に手術をお勧めします。 避妊手術は両側の卵巣と子宮を摘出しますので、卵巣や子宮にできる腫瘍は予防できます。 卵巣腫瘍は発生率は低いですが、気付くのが遅く、手遅れになる場合や前述のエストロジェン中毒になっている場合もあります。 子宮腫瘍はほとんどが平滑筋腫という良性腫瘍ですが、ごくまれに悪性の場合もあります。腫瘍の他にも子宮蓄膿症なども予防もできます。 このように去勢や避妊手術で予防できる腫瘍があります。 最近は麻酔後の痛み止めもしっかりできますので是非ご一考を。

  2011/07/28   gracom
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