予防医学コラム

老衰について

 約16年間行ってきた当院の訪問診療で看取らせて頂いた患者さんは、最近約800人となりました。その死亡診断名で、約48%を占めるのが老衰という病名です。厳密に言うと、老衰というのは病気ではなく、人間が高齢になるにつれ身体の様々な機能が低下していく自然な老いの状態といえます。今回のコラムでは、この老衰という状態を理解して頂きたいと思います。
私は日頃からご高齢の方の診療に携わる機会が多いため、100歳を超えても元気にお一人で外来通院される患者さんによくお会いします。そのような方は、若い頃から健康に気をつけられてお元気である一方、恐らく健康で長寿になれる遺伝子を持っていると私は考えています。そのような長寿の遺伝子を持たない大多数の方は、男性では81歳、女性では87歳くらいが最近の日本の平均寿命ですので、この年齢を超えてくると身体の色々な機能が低下してくると思われます。まず足腰の痛みや下肢筋力の低下で歩かなくなる⇒胃腸の動きが悪くなる⇒食欲が低下する⇒食事量が減る+胃腸の消化吸収が弱ってくる⇒低栄養状態になる⇒下肢がむくむ+全身の筋肉量が落ちる⇒ますます歩かなくなる、というような負の連鎖が何かのきっかけで起こってしまうと、それをどこかで断ち切らないとどんどん老衰が進んでしまいます。こうならないためにも恐らく最も重要なのは、歩き続けられる下肢の筋力維持だと思います。そのため普段から散歩をしたり、下肢の筋力維持のための適度な運動を定期的に行うことなどが高齢の方には必要だと思います。またこのような負の連鎖が進んでくると、次に起こるのが飲み込む力の低下です。水分を飲むとむせてしまったり、むせる力も低下してくると、唾液や水分、食事が気管に入り込んで、誤嚥性肺炎や窒息などを起こして命に関わる状態に陥ることもあります。そして完全に飲み込む力が低下してしまうと、口に水分や食べ物を入れてあげても飲み込めずにずっと口の中に残っているという状態になってしまいます。このような状況だと、自分一人ではほとんど動けなくなる寝たきり状態で、着替えや食事、トイレ、入浴などの様々なことを全て介助を受けなければ生命の維持が難しくなっていきます。
以上のように病気にならなくても、人間には生物的に生き続けられる限界の寿命があり、その人の寿命と思われる時期が来た時に、延命治療を行わずに自然の経過で見守っていくと、老衰という状態でお亡くなりになります。しかし日頃からの筋力維持の運動などで健康寿命は延び、老衰となる時期も遅らせることができますので、寝たきり状態がないピンピンコロリを目指して頑張りましょう!

本間先生(内科)   2025/09/22   gracom
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