前回、カテーテル治療(PCI治療)のメリットとデメリットについてのお話ししましたが、今回は記憶に残っている(非常に大変だった?)治療についてお話しします。
私が一人でカテーテル治療をし始めて3年くらい経過した頃です。胸痛の患者さんが救急車で来院されました。血圧、脈拍ともに低く、全身発汗著明で、明らかにショック状態で、いつ心停止してもおかしくない状況でした。心電図、心臓超音波検査で、すぐに心筋梗塞と診断。循環器内科医は私ひとりです。救急医や心臓血管外科医のいる大きな病院であれば、すぐに人工心肺装置を装着の上、緊急カテーテル検査、治療が可能ですが、一刻の猶予もありません。カテーテル室に搬入し、まず一時的なペースメーカーを足の付け根から挿入し、脈拍は上昇。続いて冠動脈造影検査を開始し始めたところ、心停止。気管内挿管、心臓マッサージを行いながら、心筋梗塞部位のカテーテル治療を開始。詰まっていた冠動脈の流れが再開し自己心拍は再開しましたが、まだ血圧は不安定なため、補助ポンプを装着し、集中治療室へ。強心剤や昇圧剤など多数の薬剤を投与しながらの集中治療です。心停止の時間があったことから患者さんの意識は戻らず、自発呼吸もありませんでしたので、低体温療法も行いました。このままでは、脳死か植物状態になるかもしれないと思いました。しかし4日目、眼を開けるようになり、自発呼吸も再開。1週間目には人工呼吸器から離脱できました。高次脳機能障害が残存していましたが、リハビリで記憶も回復し、約1か月で自宅退院でました。
救急来院からチーム一丸となって行った治療が実を結んだ結果だったと思います。心臓カテーテル治療7千件以上を行ってきましたが、緊急時にも冷静で的確な判断ができた一番記憶に残った治療でした。そして治療に際してはいつも緊急事態に備えて、日々鍛錬して参りたいと思います。
次回は、外来で訴えの多い『動悸と不整脈のお話し』を御紹介したいと思います。