百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)による急性気道感染症である。病態としては、まず1~2週間ほど咳が続く(カタル期)。百日咳は大半が発熱を認めず、カタル期では感冒と勘違いして受診しない患者が多く、急激に咳が増悪する痙咳期で受診する場合が多い。
痙咳期では、夜間咳嗽が顕著に出現し、吸気時笛声(ウーピング)を認める。激しい咳によって顔面紅潮を来し、表情からも苦しさが見受けられる。血液検査所見では白血球(WBC)数が高値を示し、そのうちリンパ球が優位となるが、CRPは正常なことが多い。
臨床上の所見からマイコプラズマ肺炎と比較されることがしばしばあり、類似の所見としては痰の出ない乾性咳嗽である。異なる所見としては、マイコプラズマ肺炎は発熱があり、WBC数は正常で、CRPは上昇することが多い。また、両感染症は共通してマクロライド系抗菌薬が治療に用いられる。マクロライド系は新生児にも使用でき、汎用性が高い。ところが、現在流行している百日咳では、マイコプラズマ肺炎と同様に、マクロライド耐性菌が増加している。海外渡航歴のない症例からも耐性菌が分離され、2025年3月には日本小児科学会から注意喚起がなされた。
耐性菌に対する代替治療薬として十分な知見を有する薬はないが、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤、商品名バクタ他)の使用が考慮される。ただし、低出生体重児や新生児、妊婦には禁忌であることに注意が必要である。また、集中治療を必要とする重症百日咳を疑う症例では専門医に相談することが望ましい。
感染経路は百日咳、マイコプラズマ肺炎共に接触感染と飛沫感染で、家庭内でもマスクの着用を指導する。 百日咳は母体からの胎盤移行抗体では防ぎきれないため、新生児でも罹患し得る。予防としてワクチンの定期接種が有効であり、現行では0歳代の3回の初回接種(生後2カ月から接種可能)と、1歳以降に行う1回の追加接種の計4回が行われている。だがそれらを接種した児においても、抗体が減少してくる幼児期から学童期にかけての感染例が相次いでいる。
日本小児科学会は前述の注意喚起の中で、任意接種にはなるものの、就学前の3種混合ワクチンの接種、また、現在11~12歳の定期接種となっている2種混合ワクチンの代わりに3種混合ワクチンの接種を推奨している。
学校保健安全法施行規則では感染した児童生徒の出席停止に関する措置基準が定められている。
学校感染症の種別としては、百日咳は第2種で、出席停止期間は「特有の咳が消失、または5日間の抗菌性物質製剤による治療終了まで」とされている。咳が続く場合はマクロライド耐性の可能性もあるため、再受診が必要となることもある。
マイコプラズマ肺炎は第3種に該当し、急性期は出席停止となる一方で、明確な出席停止期間は定められておらず、症状が軽快すれば登校可能となる。