今回からは眼科疾患、特に網膜硝子体疾患について、それぞれ詳しく解説していきます。まずは私が専門とする糖尿病網膜症についてです。とても大事な病気なので、複数回に分けて掲載していきます。
現在、世界の糖尿病患者は5億人以上、日本の糖尿病患者は約1000万人、糖尿病予備軍も約1000万人と、「日本人の5人に1人が糖尿病」という時代に突入しております。日本において、初めて糖尿病患者としての記録が残っているのは、大河ドラマでもお馴染み、平安時代の最高権力者「藤原道長」です。藤原実資の日記「小右記」には道長の病状について「しきりに水が欲しくなり、最近では昼夜の別なく、口が渇き水を飲むが、食事は減っていない。とにかく体がだるい。」とあり、「近寄らなければ、汝(なんじ)の顔が見えない」と目に関する症状も記載されております。晩年の藤原道長は、糖尿病よる白内障の進行か、糖尿病網膜症によって視力を失っていたと考えられています。
飽食の現代において、国内での失明の主な原因は、1991年では糖尿病網膜症が第1位でしたが、2019年には緑内障、網膜色素変性症に次いで第3位(12.8%)と順位を下げています。これは内科との連携で網膜症をコントロールできるようになってきたことに加えて、眼科治療の大きな進歩によるなどと考えられています。しかし、新規視覚障害認定者を年代別にみた場合、緑内障は70歳以降が多い一方で、糖尿病網膜症は50〜60歳代に多いというデータもあります。子供の進学などで経済的にも負担が大きい働き盛りの年代において、視覚障害により離職、失職などに至るという問題は、社会的な影響も極めて大きく、糖尿病網膜症が早急に克服すべき最重要疾患であることに変わりはありません。
糖尿病網膜症の悪化因子
糖尿病は、長年の歳月をかけて、高血糖や慢性の炎症によって、全身の血管や神経をボロボロに壊していく合併症が恐ろしい病気です。そして一度壊れると、完全に修復されることはありません。眼は唯一直接血管と神経が観察できる臓器であり、その病状を直接見たものが「糖尿病網膜症」なのです。詳細は次回書かせて頂きますが、糖尿病網膜症では、網膜の血管などがだんだん壊れていき、血管がつまり、血のめぐりが悪くなります。そして網膜がむくんだり、異常な血管が目の中に蜘蛛の巣のように生えて、それらから出血を起こしたり、網膜を引っ張って網膜剥離を起こしたりして、最終的には失明に向かうのです。
このような病態を悪化させる要因は、非常に多く報告されております。まずは当然「血糖コントロールが良くない(高血糖)」ことです。HbA1cの低下はリスクを減らします。糖尿病の「罹病期間が長い」ほど、また「1型糖尿病」では網膜症を発症しやすくなります。年齢は「若年者」の方が悪化しやすいです。「高血圧」は大きなリスク因子で、「妊娠」も急激な悪化のリスクとなります。更に「喫煙」も血管を収縮させるため、悪化の要因となります。我々眼科医は、このような悪化因子が常に影響していないか考えながら診療し、出来るだけそれを減らすように、的確にお伝えするのが使命だと考えております。次回は糖尿病網膜症の病状について、詳しく書いていきます!