予防医学コラム

アセトアミノフェン1

アセトアミノフェンは、熱を下げる「解熱」と、痛みを緩和する「鎮痛」という2つの作用を併せもつ解熱鎮痛剤の代表的な成分です。医薬品としての歴史は古く、1870年代に科学的な合成薬として開発され、初めて臨床で用いられたのが1890年代といわれています。以来、100年以上にわたって世界中で広く使用されてきました。
長い歴史をもつ成分でありながら、アセトアミノフェンが熱や痛みに対してどのように効くのか、その作用機序についてはいまだはっきりしたことは分かっていませんが、体の中で発熱や痛みを引き起こす原因物質に「プロスタグランジン(PG)」があり、アセトアミノフェンは、脳の中枢系でPGをつくり出す酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害することで、熱や痛みを抑えると考えられています。
解熱消炎鎮痛剤(NSAIDs)は主にPGの産生を抑制することによって解熱・鎮痛効果を発揮しますが、このPGは胃粘膜の保護 にも関わっています。そのため、NSAIDsという薬全般に『胃粘膜を荒らしやすい』という弱点があります。さらに、「ロキソプロフェン」や「イブプロフェン」といった酸性NSAIDsは、胃という酸性環境下でイオン化して胃粘膜細胞に蓄積するため、これが更に胃を荒らす原因になります。一方、「アセトアミノフェン」も少なからずPGへ作用しますが、その作用は強くはありません。また、酸性NSAIDsのように胃粘膜細胞を直接傷害する作用もありません。そのため、「アセトアミノフェン」は『胃にやさしい』とされていますが、実際に「アセトアミノフェン」はNSAIDsに比べると消化管関係の副作用発生率が低いことも確認されています。つまり、「アセトアミノフェンはNSAIDsよりも胃にやさしい」という話は、科学的根拠に照らし合わせても、確かにその通りのようです。では、「アセトアミノフェン」に消化性潰瘍を起こすリスクは全くないのかというと、これに関しては少し慎重に考える必要があります。先述の通り、「アセトアミノフェン」もPGの産生に対して多少なりとも作用することを踏まえると、胃粘膜への影響はゼロとは言えないからです。
たとえば、薬に『胃を荒らす』様な薬理作用がある場合、その薬をたくさん使えば使うほど消化管出血や消化性潰瘍の発生率は高くなります、つまり用量依存的に副作用が増える傾向にあるはずですが、実際に「NSAIDs」ではこうした傾向が観察されています。一方で「アセトアミノフェン」の場合は、用量が2、000㎎未満でも、4、000㎎以上でも、消化管出血の発生率は一定で変わらなかったという結果が得られています。この結果からは、「アセトアミノフェン」に『胃を荒らす』薬理作用はほとんど無いか、あったとしても非常に小さい、と解釈することができます。

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