前回、白内障手術について詳しく解説しました。通常の白内障手術では、元々の水晶体の嚢を袋として、その中に全長1㎝程度の小さな人工のレンズ(眼内レンズ)が入ります。この眼内レンズの選択は、基本的に医師側の裁量ですが、眼鏡のレンズとは異なり、簡単に眼内のレンズを入れ替えることは不可能です。したがって、ピントの位置などについて、患者様に十分な理解を頂いた上で、眼内レンズを選択する必要があります。
●眼内レンズの種類
この眼内レンズには大きく分けて「単焦点レンズ」と「多焦点レンズ」の2種類があります。単焦点眼内レンズ(保険診療)は、1つの距離にピントが合うレンズです。遠方(無限遠〜1m程度)に合わせると近くは老眼鏡が必要となり、近方(30〜40㎝程度)に合わせると(近視を残すと)、遠くを見るときは眼鏡が必要になります。合わせた距離での視力は良好で、鮮明に見えやすいです。一方で、多焦点眼内レンズは、複数の距離にピントが合うレンズです。ピントの合う範囲が広いので、遠方から近方まで、比較的自然な見え方が期待できます。手術後に「なるべく老眼鏡を使いたくない」という方にオススメです。手術費用は医療保険の白内障手術料の他に、「多焦点眼内レンズ代」が自己負担で追加されるため(選定療養)、高額になりますが、ほとんど眼鏡なしで生活ができるようになることが期待できます。
見え方のイメージとしては、単焦点レンズは、一眼レフカメラで撮影した画像、つまりピントが合っているところはとても鮮明に見えますが、合っていないところはボヤける感じです。多焦点レンズは、高性能スマホのカメラで撮影した画像、つまり全体にピントが合い、綺麗だなと思いますが、解像度は一眼レフには及ばないというイメージです。
●多焦点眼内レンズの注意点
近年、健康への自己投資意識の高まりから、多焦点レンズを希望される方が全国的にも増えております。ただし、多焦点レンズにはデメリットもあり、十分な理解が必要です。まず、暗い場所で街灯や車のライトなどの光の周りに輪がかかったように見える「ハロー」や、光が花火のように見える「グレア」を感じることがあります。また、薄暗い場所では文字などが見えにくい場合があります(コントラスト感度の低下)。そして、辞書などのかなり小さい文字を見る際には、結局老眼鏡が必要になることもあります。
●乱視矯正の眼内レンズ
白内障手術後、乱視が残ると、ブレて見えるため、特に遠方の裸眼視力が出にくい原因となります。単焦点にも多焦点にも、「乱視矯正(トーリック)」眼内レンズというタイプがあり、このレンズを用いることで、乱視をある程度減らすことができます。ただしそのためには、術前の正確な計測と、手術中の正確な眼内レンズ固定が重要です。オホーツク眼科では、積極的にトーリックレンズを使用し、最先端の検査・手術機器を用いて正確に乱視を減らす手術を行っております。上述の通り、眼内レンズは基本的に取り替えることはできませんので、一生に一度の手術ですから、患者様もしっかりと理解された上で、手術を受けて頂くことをお勧め致します。