予防医学コラム

毒をもって毒を制す!?②

 アコニチンもテトロドトキシンも両者とも毒性が高いため、たとえ拮抗が成立したとしても、ちょっとでも投与量を間違えれば症状が悪化してしまいます。
半減期の違いから、どちらかだけの症状が出てくることも考えられます。アコニチンとテトロドトキシンを同時に投与された事件があったようです。
1986年に起きた「トリカブト保険金殺人事件」として報道されています。加害者である夫が、妻を殺害するためにトリカブト由来のアコニチンを使用しました。ところが、この事件をさらに異例のものにしたのは、テトロドトキシンの検出でした。毒物鑑定の結果、被害者の体内からは両者が確認され、当時の毒物捜査の常識を覆すダブル毒の使用が明らかとなったのでした。
被害者は夫と離れてから1時間40分後に苦しみ出しており、事件発覚当初、短時間で症状が出るアコニチンを被害者に飲ませるのは困難ではないかとされました。
しかし、テトロドトキシンが検出されたことで、話が変わります。テトロドトキシンの半減期はアコニチンよりも短いため、両方同時に飲ませると、当初は作用が拮抗して症状が出ず、拮抗作用が崩れたときにアコニチンによって死に至ったと考えられました。これにより、夫は無期懲役となったのです。 
アコニチンやテトロドトキシンには、現時点で「特効薬」は存在しません。治療はあくまで支持療法です。ECMO管理も視野に、呼吸と循環を維持しつつ、体外排泄を待つしかありません。
テトロドトキシンとアコニチンを中和させて治療できるのであれば大変興味深いですが、臨床応用は非常に困難であり、むしろ危険性のほうが大きいと思われます。

原口先生コラム

原口先生(薬剤師)のコラム   2025/08/25   gracom
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