先月のコラムでは、モノが歪んでみえる状態(歪視症、変視症)について解説しました。この代表疾患とも言えるのが、黄斑上膜(網膜前膜)です。網膜の中心である黄斑部にセロファンのような膜ができて、その膜が収縮してくると網膜に皺(しわ)ができる病気です。加齢に伴ってできる「特発性」のものがほとんどですが、他の病気に伴ってできる場合(続発性)もあります。
○原因と症状
50~70歳代に見つかるものの多くは、特に原因がない、加齢に伴うものです。続発性のものは、網膜剥離やその手術後、ぶどう膜炎などに伴って生じます。早期には自覚症状はなく、検診の眼底写真などで偶然発見されることも珍しくありません。進行すると、網膜にしわができるために、物が歪んで見え、視力低下が生じます。特発性の場合には進行が非常にゆっくりであることが多く、数年から10数年の経過でじわじわと進行していきます。続発性の場合は、比較的進行が早いです。
○検査
前回解説した歪みの検査(アムスラーチャート、Mチャート)で症状の程度を評価します。そして最も重要な検査は、網膜の断面検査である光干渉断層計(OCT)で、膜の形状や黄斑の変形の程度が評価できます。通常、網膜のしわや変形の程度が大きいほど、歪みの度合いや、視力低下が大きくなり、治療の適応を決める判断材料となります。
○治療(硝子体手術)
点眼や内服薬で膜が消えることは当然ありません。自覚症状が軽度の場合には経過観察をします。変視症が強い、視力が低下している、または視力が比較的良くても、網膜の変形が大きい場合は、硝子体手術を行います。網膜表面に貼りついたセロファン状の膜を極小のピンセットでつまんで、除去します。白内障の手術も同時に行うことがほとんどです。
黄斑上膜は比較的よく見かける病気です。この黄斑上膜がはっきりとあるのに、白内障手術だけを行うと、視力は白内障分はあがりますが、ゆがみが残ったり、十分な視力改善の妨げになることがあります。当院ではこの硝子体手術を、日帰りで、毎週日常的に行っております。手術時間は20〜30分程度で、十分な局所麻酔(球後麻酔)と低濃度笑気麻酔で、ストレスなく受けて頂くことができます。この疾患と診断を受け、歪みや視力低下がある場合は、網膜を専門とする当院へ是非ともご相談下さい。