★明るいところや、白い壁、青空などを見つめたとき、下を向いていて急に顔を上げた時など、目の前に虫や糸くずのような「浮遊物」が見えることがありませんか?視線を動かしても一緒についてくるように感じられ、まばたきをしたりしても消えませんが、暗いところでは気にならなくなります。このような症状を医学的に「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼んでいます。
○飛蚊症の正体
眼球の内部のほとんどは、「硝子体(しょうしたい)」というゼリー状の透明な物質で満たされています。角膜と水晶体を通して外から入ってきた光は、この硝子体を通過して網膜まで達します。そのため、硝子体に何らかの『濁り』を生じると、その濁りの影が網膜に映り、眼球の動きと共に揺れ動くため、あたかも虫や糸くずが飛んでいるように見えるのです。この『濁り』には、生理的なものと、病的なものがあります。
○生理的な飛蚊症
胎児の頃、眼球が作られる過程で、硝子体には血管が通っていますが、眼球が完成すると、この血管は無くなるのが普通です。しかしこの血管の名残が硝子体中に残ると、『濁り』となって、飛蚊症を感じます。若い人に多く、このタイプの飛蚊症は問題となりません。一方で、特に40〜60代になってくると、硝子体はゼリー状から液状に変化し、収縮して網膜から外れてきます。これを「(後部)硝子体剥離」と呼びます。これにより特に視神経乳頭に付着していた部位が、リング状の混濁(Weiss ring)となり、「丸い影が見える」と訴えられる方も多いです。この飛蚊症も基本的には生理的な現象であり、後述する「網膜裂孔」などが見つからなければ、問題にはなりません。また若くても、近視が比較的強い方は、硝子体が変性しており、後部硝子体剥離を起こしやすく、硝子体剥離がなくても、変性した硝子体による混濁から飛蚊症を自覚しやすいです。
○病的な飛蚊症
網膜の周辺部などに癒着が強い部分があった場合、後部硝子体剥離が起こる際に、硝子体が網膜を引っ張り、「網膜裂孔(もうまくれっこう)」という網膜の穴や裂け目ができてしまうことがあります。そしてその網膜裂孔から、液化した硝子体が網膜の下に流れ込んで、「網膜剥離(もうまくはくり)」を起こすこともあります。このような際は、目の前に飛ぶ浮遊物の数は急に増えますし、悪化すると視野が欠けて、放置すると失明至る恐ろしい状態です。
また硝子体中に出血が起こる「硝子体出血」によっても飛蚊症を感じたり、目の前に赤い(黒い)カーテンを引いたように感じます。濁りの程度によっては、視力も下がってしまいます。硝子体出血の原因は様々で、糖尿病網膜症など血管系の病気、外傷、上記の網膜裂孔でも出血が生じることがあります。更に、「ぶどう膜炎」といって、目の中に炎症が起こる病気でも、硝子体が濁ることがあるので、飛蚊症を感じます。
「飛蚊症を感じたら、まずは眼底検査を!」と眼科医が啓発しているのは、特に40代以上は上記の「後部硝子体剥離」の好発年齢であり、それが「網膜裂孔・網膜剥離」を引き起こすことから、飛蚊症が生理的か病的かの判断は眼科医がすべきと考えるからです。特に網膜裂孔を疑う場合、現在の医療では、散瞳薬を用いて瞳孔を開いて、眼底の周辺部までしっかりと観察することが必要です。患者様には、不便をおかけしますが、正しい医療のためにご理解頂けますと幸いです。次回のコラムでは、当院が得意とする「網膜裂孔・網膜剥離」の診断と治療について掲載予定です。