予防医学コラム

ビタミンDについての一説

「ビタミンDは、日光(UV−B)への曝露による体内産生や、ビタミンDを含有する食品、サプリメントの摂取により得られる特徴的なプロホルモンである。体内のカルシウムとリンの濃度を調節し、骨格の健康維持に不可欠な役割を果たしています。
そうしたビタミンDの摂取については、年齢や妊娠の有無などによって異なる多くのガイドラインが存在します。2011年に米国内分泌学会が発表したガイドラインは、低ビタミンD状態のリスクがある患者のケアに重点を置いていたほか、主に観察研究に基づいていた。本稿では、2011年以降に発表された臨床試験結果で得られたデータを踏まえ、ビタミンDガイドラインの改訂のために実施されたシステマティックレビューについて紹介します。
日本では、2011年の米国内分泌学会によるガイドラインを受け、日本内分泌学会らが2017年に「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」を発表しており、ビタミンD不足・欠乏と骨・ミネラル代謝関連事象の関係についても示しています。
①血清25(OH)D濃度が30ng/mL以上をビタミンD充足状態と判定する
②血清25(OH)D濃度が30ng/mL未満をビタミンD非充足状態と判定する
ⓐ血清25(OH)D濃度が20ng/mL以上30ng/mL未満をビタミンD不足と判定する
ⓑ血清25(OH)D濃度が20ng/mL未満をビタミンD欠乏と判定する
ビタミンD不足・欠乏と骨・ミネラル代謝関連事象の関係
①骨折
血清25(OH)D低値と骨粗鬆症性骨折の関連を示す報告が複数存在。閉経後女性において、20ng/mL未満で既存椎体骨折が多いとの報告もある。
②骨密度
血清25(OH)D値と大腿骨頸部の骨密度には正の相関があり、20ng/mL未満で骨粗鬆症が多いとされている。
③副甲状腺ホルモン(PTH)
血清25(OH)D値とPTH値は負の相関を示す。血清25(OH)D濃度20ng/mLを閾値としてPTH値に有意差が認められることが報告されている。
④転倒
65歳以上女性において、血清25(OH)D濃度20ng/mL未満は転倒と関連がある。
⑤骨粗鬆症治療薬反応性
25(OH)D濃度25ng/mL未満群ではアレンドロネートに対する骨密度増加反応が低い。25(OH)D濃度20~32ng/mLを閾値として、それより低値ではビスホスホネートとSERMの効果低下、骨折増加も報告されている。
⑥骨軟化症・くる病
25(OH)D濃度20ng/mL未満でビタミンD欠乏性くる病・骨軟化症のリスクがある。25(OH)D濃度20~30ng/mLでも骨石灰化障害を認め得ることが示唆されている。
⑦低Ca血症
25(OH)D濃度15ng/mL未満ではビタミンD欠乏による低Ca血症と診断される。
ビタミンD受容体は体内のほとんどの組織に発現しているため、こうした骨・ミネラル代謝関連事象との関係に加え、がん、感染症、自己免疫疾患(1型糖尿病、多発性硬化症など)、心血管代謝疾患(2型糖尿病、心筋疾患など)のリスクとビタミンDの関係への関心が高まっています。
多くの観察研究では、血清25(OH)D濃度とこれらの疾患リスクの間に逆相関の関係があることが一貫して報告されています。つまり、血清25(OH)D濃度が高いほど、これらの疾患リスクが低い傾向が見られます。しかし、ビタミンD補充による慢性疾患リスクの低減効果については、ランダム化比較試験で相反する結果が報告され、結論が出ていないのが現状です。

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