薬と食品との相互作用で代表的なものの一つに、Ca(カルシウム)拮抗剤とグレープフルーツジュースがあります。グレープフルーツに含まれるジヒドロクマリンがCa拮抗剤の薬物代謝や排泄阻害に影響を与え、Ca拮抗剤の分解が遅くなり血液中の濃度が下がりづらいため、血圧が過剰に下がってしまうことがあり添付文書では「併用注意」となっています。 このグレープフルーツジュースとCa拮抗剤の相互作用の根拠となっている論文は1991年に発表されたものですが、その報告ではかなり濃いグレープフルーツジュースを1日に1 ℓ以上飲んで、初めて血圧の薬に影響するというものでした。 アメリカのスーパーに行くとジュースや牛乳などが1ガロン (約3.8ℓ)で売っていることがよくあり、それだけたくさん消費するという事なのでしょうが、日本人の感覚では1日1 ℓ以上というのは 相当な量になります。 だからと言って単純に心配ないというのではなく、その後にもさまざまな研究報告が出ていて、実際に危険性があり注意が必要なことは変わりませんが、この様によく知られている代表的な相互作用でも根拠となる論文の試験内容が極端な例もあります。 この相互作用もCa拮抗剤の種類によって影響はかなり違うという発表もあり、ジュースではなくグレープフルーツ自体がどの程度の影響を与えるのか、実際に食べて採血した結果を論文にまとめたものもあります。その実験の場合には、やはりグレープフルーツを食べるとCa拮抗剤の効果が強く出たようでしたが、同じCa拮抗剤でも薬の成分によって影響がかなり違い、2倍くらい効果が出てしまうものあれば、アムロジピンでは1.1倍程度にしかならなかったと言うデータが報告されているようです。 この相互作用はグレープフルーツに含まれるジヒドロクマリンの量に応じて強くなります。産地によってもジヒドロクマリンの含有量は変わりますし、ジヒドロクマリンの量が少ない熟したものやピンクグレープフルーツでは影響が小さくなる様です。また、10人に試験しましたが、2人はグレープフルーツを食べても血中濃度に影響はなく、それぞれの体質などによりかなりの違いが出ることも分かりました。 本当ならば個人のもつ代謝酵素やその能力、薬への酵素阻害の影響度などを勘案して「この薬ならグレープフルーツを食べてもいいですよ」と個別に説明することは可能なのかもしれませんが、人それぞれ顔が違う様に作用の強さや影響も違うので、薬剤師も判断しづらいですし、患者さんも覚えづらく、薬が変更になった時には事故が起きる危険性の方が高いため「血圧の薬ではグレープフルーツはダメ」と一律に対応することが現実的なのだと思います。