この連載を始めて間もない頃にお経についてお話をしました。何年も前のことですので、その「お経(経典)」について何回かに分けてお話をしたいと思います。
仏教は、キリスト教・イスラム教と並んで世界宗教と呼ばれています。 それぞれに聖書やコーランというように、その教義の根本精神を説いたものがあります。仏教ではそれがお経(経典)にあたります。しかし、聖書やコーランのように一冊ではなく、八万四千の法門とよばれていて、膨大な量があります。お経(経典)は、釈尊が生きている間に作られたものではなく、入滅後に千数百年にわたって作られ、また教えに対する解釈の違いから上座部仏教、大乗仏教、密教などがそれぞれ体系化して、新しい経典を作ってきたことに起因しています。
さて、釈尊が入滅した後の数百年は、その教えは文章化されずに口承によって伝えられていました。その後、仏教が盛んになり、社会情勢が変化するに従って、教えをどのように解釈するかで様々に分派していきました。そして、文字として記録する必要が生じたことから紀元前一~二世紀頃に原始経典が生まれたと言われています。現存する最古の経典はパーリ語の「ニカーヤ」と呼ばれるもので、現在までスリランカや東南アジアで使われています。その一部が「阿含経(あごんきょう)」として中国で漢訳されています。「阿含」とは、アーガマ(伝承された聖典)という意味の音写です。
また、これらの経典は、釈尊の教えすなわち説法を記したものとして「経(きょう)」、仏弟子として守らなければならない「戒(かい)(個人の規則)と律(りつ)(集団の規則)」、教えを様々な方面から研究した「論(ろん)」との三つに分けることができ、それぞれまとめたものを、経蔵(きょうぞう)・律蔵(りつぞう)・論蔵(ろんぞう)と呼び、合わせて三蔵(さんぞう)と言われています。つづく
グラコム2012年5月号掲載