さて室町時代に入り、禅宗の影響を受けたお香は天然の香木をくゆらせて楽しむことからまた一歩進み、香を鑑賞する聞香(もんこう)の基礎が確立されていきました。聞香とは一定の作法のもと香を聞くことを言います。香は嗅ぐという表現だと粋ではないとか、あか抜けしない等の理由から聞くという表現を用いますので聞香と呼ばれています。室町時代は、皆様ご存じの北山文化を代表する鹿苑寺金閣、東山文化を代表する慈照寺銀閣が建立された時代です。
初期の頃は、派手な行動で旧来の概念や行動を越えようとする人たち【「婆沙羅」(ばさら)と呼ばれていました。】により香木をたいてその種類を当てる遊びが流行りました。婆沙羅大名として有名であった佐々木道誉(どうよ)のエピソードで、一斤もの香木を桜の宴で一度にたいたとも言われています。その後の東山文化は当時の文化人が多く集って開花したため、香の世界でも多くの種類を大切にしながらごく小片を切り取ってその香りを観賞するという方法が確立していったのです。つまり聞香です。
今日の香道の始祖と呼ばれている御家流(おいえりゅう)の三條西実隆(さんじょうにしさねたか)や志野流(しのりゅう)の志野宗信(しのそうしん)が活躍したのもこの頃です。茶道や華道もこの頃に確立したといわれています。
また、組香(くみこう)と呼ばれる香をあてる遊びが確立していったのもこの頃からです。十種類の香が基本で、香りの異同を当てる遊びです。季節や文学、教養などたくさんのテーマのよって様々な遊び方が創出され現在まで発展しながら続いています。その中でも有名で親しまれているものが「源氏香」と呼ばれるもので、文字通り、源氏物語に想を得た組香です。源氏物語の全五十四巻のうちの巻頭と巻末を除いた五十二巻に「源氏香の図」というものを当てはめて与えられた香の異同を聞き分けて答えを導く遊びです。つづく
グラコム2009年5月号掲載