お香について、以前に現在までの時系列でお話をいたしましたが、今回からは何回かに分けて大きな節目となった時代について多少詳しくお話をさせていただきます。
日本書紀によれば我が国に最初に香木が伝わったのは五百九十五年。香木が淡路島に漂着したと記されています。しかし、その五十年ほど前に百済から仏教が伝来(百済の聖明王から欽明天皇に釈迦仏等が贈られた)しており、当時は仏前に花を供え、燈明を灯し、香を焚くという仏教儀礼の一つとして香がよく使われていたことから考えると、仏教の伝来と同時に大陸から伝わったというほうが自然なのかも知れません。
その後、日本は仏教や香の伝来によって大陸の文化に強く影響を受けるようになり、奈良時代になって聖武天皇が即位してからは、日本古来の文化と大陸から入ってきた道教や仏教などが融合された独特の文化が形成され、日本書紀や古事記等も編纂されて、日本がどのような国であるかの位置づけがされていきました。また、皆様もよくご存じだと思いますが、聖武天皇の遺品を収蔵するために建てられた奈良の正倉院には日本に現存する最大の香木であるといわれる全長一・五メートルほどの蘭奢待(らんじゃたい)と呼ばれるものも残されています。中国を経て輸入され東大寺に伝わったことから、その名がつけられました。蘭奢待という字をよく見ていただければ東大寺の文字がその中に隠されているのがわかると思います。また、その中には仏事に関係する香炉類がたくさんあり、当時の香が仏教と深く関わっていたことを知ることができるのではないでしょうか。
お香は当時仏教儀礼でよく使われていましたが、鑑真(がんじん)が中国から渡来され、律宗(りっしゅう)(※南都六宗の一つで奈良の唐招提寺を総本山)と共に「香の配合知識」も日本に伝えました。そのことにより様々な香料を使い、それを配合して香を楽しむことが始まりました。つまり、仏に使われていた供香(そなえこう)だけではなく、自らの居住空間において香を薫く(たく)習慣が生まれました。これは「空薫物(そらだきもの)」と呼ばれています。つづく
グラコム2009年3月号掲載