ペット医療コラム

【vol.189】なぜか最近多い骨折 〜室内落下にご注意〜

 今年は例年になく気温が高い日が続いています。またコロナ対策も緩和され出かけることが多くなったかと思います。人もペットも熱中症には十分気をつけていきましょう。
なぜか最近骨折外来が多くなっていると感じられ、注意していただきたいので「骨折」について書きます。骨が完全に折れると、曲がったり、ねじれたり、つぶれたりと「ずれ」を生じます。「ずれ」のない骨折を「ひび」あるいは「不全骨折」と呼ぶことがあります。骨折を原因別で分類すると、外傷性骨折、病的骨折、疲労骨折に分けることができます。骨折を形態(折れ方)で分類すると、横骨折、斜骨折、らせん骨折、粉砕骨折、若木骨折に分けられます。また、皮膚・筋肉の損傷の程度により、開放骨折と閉鎖骨折に分けます。開放骨折とは皮膚から骨が出ている骨折のことで、合併症(皮膚壊死、感染、癒合不全など)が多く、とても治療が難しい骨折になります。この開放骨折のことを複雑骨折と呼ぶ場合もあります。骨折の部位、程度、原因、形態、軟部組織損傷により治療法は異なります。
「外傷性骨折」は、交通事故や転落・転倒などにより大きな外力が一瞬に骨に加わって生じるものです。「病的骨折」は、骨腫瘍や内分泌障害により骨の強度が弱くなったために、小さな外力で生じてしまう骨折です。「疲労骨折」は、長期間にわたって繰り返し強い力が加わり、健常な骨が徐々に損傷する状態です。スポーツ選手でよく聞きますが、ペットでは経験ありません。 骨の周りには神経や血管が豊富ですから、骨折すると強い痛みと腫れを生じます。骨折部とその周囲からの出血が皮下に広がり、あざができたり、変色したりします。症状を表に出さず、うずくまっているだけだと飼い主が気づかない場合があります。診断は骨折した経緯や症状、病歴などを確認し、身体診察を行った上で、打撲や捻挫・脱臼と鑑別するために、レントゲン検査を行います。関節周囲の骨折に対しては分かりにくいためCT検査を追加する場合があります。骨折の治療は、「整復」と「固定」です。「整復」とは、骨折部の転位をできるだけ元通りの状態に戻すことをいいます。引っ張ったり、曲げたりして骨折を整復します。完全に元通りの形態に整復できなくても許容範囲内なら問題はありません。骨折部が再び転位しないように、ギプスやスプリント(副木)などで「固定」します。骨癒合が進行して再転位を生じないと判断できるまで固定を継続します。このような体外からの、「整復」と「固定」では十分に骨折を治せないと判断した場合には手術を行います。プレート、ピン、ワイヤーで整復した骨折部を固定します。骨折が治る時間は年齢や骨折の状態によって幅がありますが1ヶ月から半年かかります。手術後約1ヶ月は運動制限したいのですが、ペットは大人しくしていない場合が多いので飼い主さんの協力が欠かせません。最近目立つ原因の一つが「吹き抜け」からの落下です。開放的でデザイン的にもとてもいいのですが、視力が弱くなったペットや踊り場で戯れあっているペットが誤って落下してしまうケースが多発しています。落下防止策をしっかりとして事故が起こらないようにしていただきたいです。

■著者 アース動物病院 院長 上田 広之 氏

  2023/07/27   M I
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