6回目のテーマは沈静についてです。終末期医療における沈静というのは、患者さんのイライラや不安、不眠、呼吸苦、痛みなどに対し、薬剤を使用して苦痛を軽減できるようにする対処法です。軽度のイライラや不眠、不安などであれば、抗不安薬や睡眠薬などでコントロールできる場合が多いです。しかし稀にそれらの薬剤を使用すると余計に症状が悪化することがあり、その場合どうしてもやや強い薬剤を使用しなければならなくなります。そうなると場合によっては、それらの症状を改善させるかわりに、ずっと眠った状態にせざるを得なくなることがあります。また癌の終末期では、呼吸苦や痛みなどによる苦痛に対し、通常はモルヒネ製剤などでの症状緩和を行いますが、モルヒネを使用すると落ち着かなくなったり、暴れだしてしまうことが稀にあります。その際にもやや強い薬剤を使用せざるを得なくなり、苦痛をとるためにずっと眠って頂くケースもあります。しかし残念ながら、状態が悪い終末期の患者さんに沈静を行いずっと眠って頂くと、水分や食事の摂取が難しくなること、呼吸を弱めてしまうことなどから、残された時間を短くしてしまうケースが多々あります。そのため沈静を行う前には、ご本人とご家族に苦痛をとるメリット、残された時間を短くしてしまうデメリットを説明し、皆さんが納得頂ければ実施しております。しかし終末期医療において、実際に沈静を行わなければいけない時には、患者さんが苦しんでいたり、暴れている状態であるため、説明や話し合う時間が十分とれないことが多いです。そのため終末期に近づいてきていると考えられた際には、事前に患者さんご本人とご家族で、もしそうなった場合の本人の意思の確認をされていると、いざそうなった時にご本人の意思を尊重した選択ができると思われます。事前に患者さんの意思を確認しておらず、患者さん自身が治療の選択ができなくなった場合、ご家族が治療方針を選択しなくてはなりません。その際に本人の余命を短くする選択をしなくてはならなくなった場合、ご家族がその選択をしたことに対して後悔されている場面に立ち会うこともよくあります。残されるご家族の後悔や精神的な負担を軽減するためにも、事前に患者さんの意思を確認しておくことをお勧めいたします。
■お話…本間 栄志 氏 医療法人社団 邦栄会 本間内科医院 理事長