当院では、在宅医療を開始して約10年が経過しました。この期間、悪性腫瘍や老衰をはじめ、様々な急性期疾患や慢性期疾患の患者様の終末期医療を担当させて頂きました。そしてお看取りをさせて頂きました患者様は、約650人となりました。そのためこれまで学ばせて頂いた経験と、最近の終末期医療の考え方などを基に、今回から何回か、終末期医療の治療方針というテーマでコラムを書いていこうと思います。
1回目のテーマは酸素投与についてです。酸素投与を行う病気で代表的なのは、急性肺炎や急性心不全だと思います。これらの病気は、酸素の取り込みが十分行えなくなり、呼吸が苦しくなります。そのためその原因となる病気の治療を行い、再び自分の力で十分な酸素を取り込めるようになるまでの間、酸素を投与します。そのためこれらの病気では、酸素投与は一時的なもので、病気が改善すればやめることができます。一方、慢性的に肺が悪くなり酸素の取り込みが不十分となる肺気腫や間質性肺炎などでは、改善が難しいためずっと酸素投与が必要となります。終末期医療において、呼吸苦を訴えるケースは多くあります。その際にご家族や施設側から、呼吸苦をとるため酸素投与をしてほしいといわれることがよくあります。その都度次のようにご説明させて頂いております。「酸素投与を行うと一時的に呼吸苦は改善しますが、酸素が低下しないため意識がしっかりしたままになり、辛い時間を長引かせてしまうケースが多いです。また鼻からの酸素で不十分な際にはマスクに切り替えますが、マスクは圧迫感があり呼吸苦を増強させてしまうかもしれません。また鼻からの酸素もずっと流しておくと鼻の粘膜が乾燥し、痛みや鼻出血を起こすこともあります。」このように説明の上ご希望された際には使用しますが、一旦酸素投与を開始するとやめてしまったら患者様が苦しむことになるため、ずっと続けることとなります。在宅医療において酸素投与を行う際には、酸素濃縮装置というものを使用します。これは空気中の酸素を機器に取り込んで濃縮し、それを投与する装置です。当院では業者さんからレンタルし、そのレンタル料を患者様から保険請求させて頂いております。この装置は、新型コロナ患者さんが急増し、自宅療養をせざるを得なかった際に活躍した医療機器です。酸素投与の是非にしても、終末期では悩むことが多々あります。
■お話…本間 栄志 氏 医療法人社団 邦栄会 本間内科医院 理事長