グラ・コムペット広場は、毎月のように送られてくる読者からの要望により2003年8月号より連載がはじまりました。その時々の人気のペットの紹介や育て方、接し方などに触れながら続いてきました。
アース動物病院院長 高良広之先生による医療コラムは、2003年12月号より連載が始まりました。グラコムネットではペット医療コラムとかわいい自慢のペット達を紹介する「みんなのひろば」のコーナーがあります。ぜひ参加してくださいね。
ペット医療コラム Vol.124
子宮のトラブルに注意
〜子宮蓄膿症〜
今年は何処の地域でも雪が多く、皆様たいへんご苦労されているかと思います。くれぐれも事故のないように気をつけていきましょう。あと1ヶ月もすると春の気配を感じられますよ。
今回は子宮のトラブルについて書こうと思います。7年前にも書きましたが、最近また子宮のトラブルで手術することが多くなっていますので改めて書きます。
子宮の病気の症状はほぼ共通しています。外陰部からの異常な排出液(出血、膿)や腹が張っているという症状です。また、病態によっては食欲不振や多飲多尿を訴えることもあります。主な病態は、子宮蓄膿症、子宮水症、子宮粘膜症、子宮内膜炎、腫瘍などです。最も多く遭遇する子宮蓄膿症について書きましょう。犬の子宮蓄膿症の発生率は15〜24%と言われています。一方不妊手術済みの犬における発生率は0%です。つまり避妊手術をしておくと、この病気にはならないということです。費用のことを言って不謹慎かも知れませんが、避妊手術料金は病院によって設定が違いますし、体重によっても違いますので、各動物病院にお問い合わせしていただくとして、子宮蓄膿症の手術代は不妊手術の2から5倍ぐらいかかると思います。料金に幅があるのは犬の状態によって手術前後の治療が変わるからです。
子宮蓄膿症になぜなるかを少しお話ししておきましょう。犬の発情は通常6〜7ヶ月周期です。性周期には卵胞ホルモン(エストロジェン)とか黄体ホルモン(プロゲステロン)というホルモンが関与します。特に犬は妊娠の有無にかかわらず黄体ホルモンの影響を長期にわたって受けると言われています。発情中盤からメス犬は徐々に黄体ホルモンが上昇します。このホルモンの影響で、オス犬の精子を受け入れやすくするために、排除機能が低下し、子宮でも受精卵が着床・発育しやすいように、動きが静かになり、受精卵を守るために、子宮の入口が閉じられます。そして外からの細菌に対する炎症反応(防御)も抑制される状態になってきます。もしこの時期、病原性のある細菌が膣から子宮に侵入すれば、退治されずに内部で細菌が増殖する可能性が高くなってくるのです。子宮蓄膿症の膿から分離された細菌の約8割が大腸菌などのグラム陰性菌で、その多くが毒素(エンドトキシン)を産生します。その毒素による腎臓の二次的な障害によって、犬はたくさんのオシッコをし、水をがぶ飲みし始めます。生理が終わって約1〜2ヶ月後にこのような症状があれば、受診されることをお勧めします。放っておくと閉鎖型の場合、子宮が破裂して膿が腹腔内に飛び散って腹膜炎を起こしたり、病原菌の毒素が体中に回ってひどい腎臓障害や多臓器不全、敗血症を引き起こして死に至ります。症例全体の5%から10%死亡するという調査報告もあります。
治療法は、外科手術によって子宮と卵巣を切除するのが最も確実で推奨される方法です。しかし、高齢で麻酔が困難だったり、どうしても手術を希望されない場合は内科療法を行ないます。抗生剤とホルモン療法が主体となりますが、再発や副作用もありますので注意が必要です。このように子宮蓄膿症は大変な病気です。子犬を産ませる予定がなければ、不妊手術を強くお奨めします。ぜひご検討してみてください。
アドバイス:アース動物病院 院長 高良広之氏
北見市北進町4丁目3番43
TEL0157-22-6367
グラコム2015年2月号掲載