タイトル

女性と漢方(99) 〜常に痰のある咳〜


『35歳M歳さん。7日前に風邪をひいた。近医にて抗生剤・去痰薬・解熱鎮痛薬を処方され、熱はすぐにひいたが、その後も咳が止まらず、咳のために夜も熟睡できない。痰がらみもあり、痰は黄色で粘っこい。咳は夜間になると悪化して、横になるとひどくなる。とにかく咳をどうにかしてほしいという希望にて来院。』
 Mさんは妊娠中で咳き込むとお腹も張るようなので、切迫早産の心配もあって来院されました。最近は「副鼻腔気管支症候群(SBS)」という概念があり、マクロライド系抗菌薬や去痰薬が有効とされてはいますが、なかなか治りきらずに苦慮されている方もいらっしゃいます。急性期を過ぎたいわゆる「慢性咳嗽(がいそう)」を漢方医学としてアプローチする場合にまず重要な点は「常に喀痰があるかどうか」です。


 常に痰がある場合は、次に「痰の性状」で処方を考えます。
①透明で多量な痰 
②黄色から白色で大量な痰 
③黄色い粘着な痰 
に分類しますと、Mさんは③に該当し、『竹筎温胆湯(チクジョウウンタントウ)』を処方しました。「夜間、寝ようとすると咳のために眠れない」点はこの漢方薬を使用する際のキーワードになります。
 一方、①の場合は、特に明け方に痰や咳が増えることが多く、『苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)』を処方したりします。②の場合は、日中・夜間かまわずに咳や痰があり、『清肺湯(セイハイトウ)』は有効です。
 このように、漢方薬は痰や咳に関しても、細かい配慮が構成される生薬によってなされています。痰が比較的少なく、「咳喘息・アトピー咳嗽」に関しては次号に解説したいと思います。慢性咳嗽で悩まれている方は漢方薬も治療の選択肢に一つに加えてもよいのではないでしょうか。
2012年11月30日(金) No.574 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(98) 〜不妊症と漢方薬①〜


『30歳Sさん。結婚5年目で子供に恵まれない。婦人科では「器質的な異常はない」と云われた。排卵誘発剤を使用すると、体調不良?となるために中止した。漢方薬を試してみたい希望にて来院。』
 Sさんは非常に冷え症で疲れやすく、多汗な方でした。5年目から季節の変わり目になると、顔が赤くなり、ブツブツとした吹き出物ができやすいようです。このため化粧ものらない。月に1回はのぼせる。口が渇く感じもすることが多い…と訴えも多い方でした。
 体格は痩せてやや小柄で、血色は蒼白で、皮膚のつやが悪い印象でした。まずは、漢方薬が希望でしたので、『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』を2週間飲んでもらいましたが、全く変化なしとの事。もう2週間辛抱して飲んでもらったところ、「手足が少し温かい感じがしてきた」と云うので、『附子(ブシ)』を加えてさらに温めてみることにしました。
 その後は、「かなり温かくていい」と3ヶ月毎に薬を取りにきていましたが、こちらもSさんのことを不妊と忘れかけていた頃(ちょうど飲み始めてから7ヶ月位)に突然「生理が遅れています」と来院され、妊娠と判明しました。


 Sさんは数ヶ月集中的に漢方薬を服用して、結果的に妊娠したケースでしたが、これをマネして同じ漢方薬で妊娠すると早合点してはいけません。要は、Sさんは「冷え」が悪さをしていたのです。この「冷え」を治す治療手段としての漢方薬が有効だったにすぎません。
 このように、漢方薬は「証」(身体の状態)を把握することが重要なカギですので、「不妊」という点より「冷え」という状態に着目することが大切なのです。よく、「妊娠できるような漢方薬はありませんか?」と問われることが多いのですが、答えは「その方の身体の状態によって、使うお薬は全く違います」というお返事になります。まずは、ご自分の「身体の状態を良くする」ことが漢方医学的な不妊治療につながるとご理解下さい。
2012年11月01日(木) No.569 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(97) 〜ストレスをのりきる②〜


『41歳Nさん。32歳で第2子出産後、実家の仕事に復帰し、実母の病死や養父の老人ホームでのトラブルで頻回の呼び出し、PTAの役員になったりで、いろいろなことが重なり、不眠がひどくなった。精神科を受診し、安..
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2012年10月04日(木) No.564 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(96) 〜しつこい咳〜


『34歳Mさん。風邪をひいて内科で感冒薬を処方されたが、咳がなかなか止まらない。寝汗が出て寝苦しいので、クーラー付けっぱなしにしている冷気のせいか?咳はさらにひどく、腹筋が痛い。食欲もなくつらい。授乳中ということで、当院に来院。授乳に影響がなくて安全な薬?を希望。』
 来院時、Mさんは咳き込むと、真っ赤な顔をしてとても辛そうでした。念のため、胸部レントゲンと血液検査を行いましたが、炎症反応も軽度で肺炎などの疑いもありません。『麦門冬湯(バクモントウ)』に去痰薬を併用してみましたが、水っぽい痰が出て咳き込み、余計苦しくなってしまうとの事でした。また、知り合いからよく効く咳止め?(リン酸コデインらしい)をもらって、寝る前までに4回飲んでみても咳は一向に収まる気配はないようでした。
 単なる夏カゼもここまでくると東洋医学では「少陽病(ショウヨウビョウ)」というややこじれたステージに進行しています。そこで「みぞおちは勿論、肋間筋も腹筋も咳で響いて痛む」という点から『柴陥湯(サイカントウ)』を飲んでもらうことにしました。


 3日後、開口一番「咳が止まったせいでよく眠れました。」というので、数日続けて飲んでもらいましたが、「2〜3日で少しずつ粘っこい痰が出るようになってかなり調子は良いです。」との事でした。
 『柴陥湯』は、「激しい咳」に効くことが多いのですが、直接「咳」そのものに効く生薬は含まれていません。しかし、Mさんの『柴陥湯』の効き方は完全に「鎮咳薬」でした。古典には「みぞおちを押すと痛みがある」ときに使うという腹証が記されていますが、激しい咳を伴うと、こういう状態になることはあるでしょう。
 日常診療で遭遇する「かぜ症候群」の中でも、「しつこい咳」には手を焼くことは多いです。このようなケースでも漢方薬が有効なことはしばしばあり、漢方薬の効き方には驚かされます。
2012年09月05日(水) No.559 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(95) 〜腰痛と漢方薬〜


『54歳Nさん。5年位前から腰痛を自覚するようになり、痛みは左臀部(お尻のあたり)から下肢外側にビリビリ感を伴い、鎮痛剤を飲んでも良くならない。夏になり暖かくなると痛みは自然と軽快し、秋から冬にかけて寒..
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2012年08月02日(木) No.554 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(94) 〜体型と漢方薬〜


『46歳Mさん。「とにかく疲れやすく、すぐに横になりたい。首から上が?いつもムカムカする。」が開口一番。また、歩くときに右膝が痛くなる。1年に易疲労感にていろいろ検査したが、異常ないとの事。漢方薬が良いとのうわさ?で来院。』
 Mさんは身長158センチ、体重85キロで典型的な水太りの体型でした。易疲労感があり、すぐに横になりたいといわれたので、まず『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』を処方しました。2週間後、ムカムカは変わらないのですが、易疲労感が良くなっていました。とりあえず、このままの処方で良いかと思ったのですが、体型とムカムカがどうも気になりまして、『防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)』を処方してみました。三ヶ月後、易疲労感も取れ、吐き気もなくとても調子が良いとの事。ついでに膝の痛みもやわらいでいるようでした。


 実はMさんには、初診時に見た印象から『防已黄耆湯』を使いたいと思ったのですが、「疲れやすさ」から『補中益気湯』にしてみました。漢方は見た目も実は大切で、大塚敬節先生という漢方の大家は『防已黄耆湯』に関して「色が白く、肉が軟らかく、俗に水太りと称する体質の人で、疲れやすく、汗の多い傾向の人に用いる。あるいは膝関節が腫れて痛がる人にも用いる。有閑夫人で肥えている人にこのタイプがよく見られる。」と解説しています。
 Mさんも、まさに『防已黄耆湯』といった体型をされていましたので、最初から『防已黄耆湯』でも有効だったかもしれません。実は、Mさんに処方しながら、体重も落ちてくれることをこっそり期待していたのですが、こちらは当てが外れてしまったようです。
2012年07月05日(木) No.549 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(93)〜緊張しやすく異常に疲れやすい〜


『24歳Nさん。北見で就職し、一人暮らしを始めた頃より体調を崩した。札幌で就職したが、辛くてたまらなく退職。この1〜2年は1日中寝たきりの生活に近く、精神科にも通院中。外出時や対人時に異常に緊張し、不安神経症やうつ症状もあると本人が訴える。家族とともに来院。』
 初診時のNさんは痩せて青白い顔で、身体はとても冷たく、むくみもありました。
 血液検査では貧血はありませんが、東洋医学の立場では、「裏寒(リカン)」(身体の内部の冷え)がしっかりと認められましたので、『真武湯(シンブトウ)』を処方し、身体を温め、代謝を高めて気分も変わることに期待しました。2週間飲んで、顔色が良くなり、足取りも良くなりましたが、相変わらず気分がすぐれず寝たきりに近い生活をしており、生理痛があり、頭痛もあるとの事でした。


 下痢はなく、食欲もあるものの、手足の冷えとお腹のガスが溜まりやすいようなので、『当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)』『大建中湯(ダイケンチュウトウ)』も一緒に飲んでもらうことにしました。3週間後、外出すると異常に疲れるとの事でしたが、身体を動かしやすくなり、頭痛はなく、気分が良いとのことでしたので、続けて飲んでもらうことにしました。数ヶ月後に来院したときは、体調も良くなり、専門職の試験勉強を始めているようで、今後も漢方薬は飲み続けたいという希望でした。
 一般的ではありませんが、温裏剤(身体の内部を温める薬)である『真武湯』がいわゆる以前の呼び方の「自律神経失調症」に効果があることがしばしばあります。Nさんのように、著しい体調不良、冷えに加えてむくみ、ふらつきに対して良い効果が得られることは私自身も多く経験しています。
2012年06月01日(金) No.544 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(92) 〜易疲労感と便秘〜


『36歳Mさん。子供の頃から疲れやすいが、最近特にひどい。夜に出かけたりすると翌日はとてもつらい。手足はいつも冷たく、寒いと皮膚が真っ白になる。内科でいろいろ検査を受けたが特に異常はなし。子供の頃から便秘で下剤を服用しているが、非常にお腹がはる。不眠で睡眠導入薬を服用しており、肩こり・頭痛で時々鎮痛剤も使用する。口の渇き、多汗、身体のほてりなどもある。漢方薬を試したい希望で来院。』
 Mさんに食事について聞くと「朝・昼はあまり食べられない。夜はたくさん食事を取り、お菓子も食べている。」という状態であったため、規則正しい食事について指導し、まず胃腸の機能を高めるため、『六君子湯(リックンシトウ)』を処方しました。


 一ヶ月後、便秘が改善し、お腹の張りも良くなったとの事で、下剤は最近使用していない様子でした。
 さらに薬を続けてもらい2ヶ月後、睡眠導入薬を使用しても夜中目が覚めて、少しうつ気味だというので『香蘇散(コウソサン)』を併せて処方しました。翌月、お腹のガスが出て、とても気分が良く、朝のだるさが少し軽くなったとの事で、外来に来られたMさんの顔の表情が今までと違って元気そうでした。いつもは午前中ボーッとしていたのが『香蘇散』を飲むようになってからかなり改善したようです。
 『六君子湯』は単なる胃薬ではない点は以前の号でもお話しましたが、さらに不眠やうつを目標に『香蘇散』を合わせたことにより、気剤(「気」の異常に対する薬)としての効果も増強したと思われます。この2種類の漢方薬の合方は有名で、パニック障害にも有効なことも知られています。
 ちなみにMさんは夜のお菓子はやっと止められ、朝は果物を食べるようになったそうで、診察室に入ってきた姿は別人のように生き生きとしていたのが印象的でした。夜のお菓子好きな私にとってはMさんをお手本としたいところです。
2012年04月27日(金) No.539 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(91) 〜水毒と片頭痛〜


 『48歳Sさん。十代からの片頭痛?との事で、閉経後から一ヶ月に一回の割合で嘔吐を伴う激しい頭痛発作が出現し、近医の病院にて入院、精査したが、異常所見なしということで来院。』
 Sさんは確かにほぼ閉経に近い状態で、頭痛・吐き気に関しては、前医で片頭痛薬・制吐剤が処方されていましたのでそちらを継続してもらい、めまいに対して『半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)』を始めてもらいました。その後、めまいはありませんでしたが、隔月で非常に激しい片頭痛発作がみられるようになり、片頭痛の漢方としては定番の『呉茱萸湯(ゴシュウトウ)』を処方しました。飲むと、胃のあたりが傷むため中止してもらいましたが、何度かお話している中で、本人が水分を取りすぎると吐き気がひどく、頭痛発作が起こりやすいし、元々汗が出にくいと言うので、「水毒(スイドク)」(以前も紹介)に注目して『五苓散(ゴレイサン)』を飲んでもらうことにしました。これが一番効いたようで、片頭痛の発作までもおさまり、吐き気も出なくなりました。


 『五苓散』は以前の号で「二日酔いの頭痛」に有効なことはお話しましたが、基本的には「裏熱(リネツ)」(身体の内部に熱がこもる)に使う薬です。Sさんも「裏熱」の症状がある場合、『呉茱萸湯』は逆に不都合なことが起こりやすい可能性があります。体質的には夏場に調子が悪い方が多いので、本人はあまり夏は水分を取らないとお話していました。
 このように、水分が身体に偏在することで、吐き気を生み、結果的に片頭痛を誘発するという東洋医学的診断になるわけですが、「水毒」の人は夏場に悪化する傾向があり、秋頃から症状が少し良くなる人もいらっしゃいます。Sさんも昨年の秋からは、手足の冷えが気になるというので、現在は「冷え」を主治する漢方薬に切り替えています。春先からは『五苓散』がまた必要になってくるかもしれませんね。
2012年04月04日(水) No.534 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(90) 〜転居と突然の下痢〜


『68歳Oさん。数年前、長年住んだ土地から、息子さんの住む北見へ転居したが、その前後から体調を崩したとの事。特に、突然起こる下痢に悩まされており、それが怖くて外出できなくなったようです。その他、食欲不振や味覚の低下、だるさ、眠気、湿疹などの皮膚のトラブルも出現し、漢方薬を希望にて来院。』
 初診時は、食欲不振や味覚の異常、全身倦怠感を特に訴えていましたので、『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』を処方し、2回目からは「抑うつ」傾向もみられたため、『香蘇散(コウソサン)』を処方しました。しかし、疲れや食欲は若干改善したものの、下痢は変わりませんでした。
 約二ヶ月の通院を通して、習い事や外出に対する予期不安が強く感じられるようになったため、『半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)』に換えてみたところ、3週間後には下痢は著しく改善し、「9割方良くなり、大分楽になった」との事。フラダンスなどの習い事や外出にも自信を持てるようになった。その後は湿疹にさらに対応するため『柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)』も一緒に飲んでもらいましたが、経過は良好のようです。


 『半夏厚朴湯』は、咽頭あたりに異常な感じがしたり、自律神経失調症などに用いる機会が多い漢方薬ですが、近年では腸管運動にも作用することが動物実験で報告があり、下部消化管症状にも応用できる可能性が示唆されています。
 Oさんは原因不明の腹痛・下痢を訴えていましたが、慣れない土地での生活にうまく適応できず、その不安やストレスが背景にあったのかもしれません。同じ気剤(「気」に作用する薬)である『香蘇散』の効果が十分でなかったことから、『半夏厚朴湯』に含まれる生薬の中でも強い抗不安作用を有する「厚朴」が有効であったのでしょう。  
 漢方薬は「気」の異常からきたす消化器症状にはとても有効なことが多く、内臓だけにとらわれずに全人的なアプローチが大切なことを実感した症例でした。
2012年03月01日(木) No.529 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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