タイトル

女性と漢方24〜腎虚って何?(その1)〜


以前に東洋医学では消化吸収機能をつかさどる「脾(ひ)」というお話をしましたが、今回は「腎(じん)」の概念についてお話します。「脾」と同様に「腎」も腎臓そのものを意味するものではありません。腎は生を受けたときにもつ本来のエネルギーを保持していますが、年齢とともにそのエネルギーは減っていきます。今話題になっているエイジング(加齢)は東洋医学的にはまさしく腎の衰え(「腎虚(じんきょ)」といいます)をさしています。では、「腎虚」ではどのような症状が出現するのでしょうか?「尿が近い、または出にくい」「腰が痛い」「足腰に力が入らない」「精力減退」は代表的な症状ですが、「耳鳴り、めまい」「難聴」「むくみ」「かゆみ」「冷え」「手足のほてり」といった症状もあります。なんで「耳」の症状?と思うでしょうが、東洋医学では「腎」は「耳」につながっているという解釈があります(腎臓が弱ったら耳もおかしくなるという意味ではありません)。「経絡(けいらく)」という考えがあるように人間の身体はインターネットのようにいろいろな部分と連絡し合っていて、こういう考え方は古来からありました。さて、今回の患者さんです。 
『64歳、Kさん、女性。最近、どうもおしっこが近くて泌尿器科を受診したが膀胱炎ではないといわれた。歳のせいか腰も痛いし…。夜なんか足がほてって眠れない。漢方薬でも試したいとのことで来院。』


Kさんを診た瞬間、「腎虚」かなと思いましたが、一応お腹を触り(腹診)証明することにしました。代表的なサインは「少腹不仁(ショウフクフジン)」といって、臍の下あたりに周りと比べて力がなくてヘニョッとした柔らかい部分があるかどうかです。
この方にはこのサインがありました。
腎を補う漢方薬として『六味丸(ロクミガン)』を処方しましたが、1ヶ月でとてもおしっこの調子が良く、夜ふとんから足を出さなくなったとのことでした。さて、「腎虚」でなぜ「ほてり」が出現するのでしょうか?手足がほてると冷やせばいいと思いがちですが、ご高齢の方の「ほてり」の原因は「乾燥」によるものが意外と多いものです。つまり、潤してあげると改善する「ほてり」なのです。一度、大汗をかいたときに水を飲むのを我慢してみて下さい。この「ほてり」を実感できますよ(笑)。
2006年09月10日(日) No.208 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方23〜更年期にもいろいろ〜


『49歳、Jさん、女性。最近、急に胸が苦しくなったり、気分が落ち込んだり、頭にきたりで、とにかく気が変になりそう。半年前から生理も不順で、同年代の人も更年期と云われた人もいるとの事で、来院。』
更年期の方の背景は、西洋医学的には「女性ホルモンの失調」ですが、単にそれだけではありません。家庭では子供の進学・就職の問題、仕事を持っている方は立場上のストレスなど様々なことが影響する年代なのです。
更年期障害を東洋医学的に扱うときのカギになるのは「気の異常」です。しかし、「気の異常」は「血」「水」にも影響するので、それぞれに対応する生薬で構成される漢方薬が必要になります。(気・血・水については以前の号を参照)「気の異常」は決して精神の病気を意味するのではなく、私達が日常誰でも経験する現象です。イライラしたり、胸が締め付けられるような思い、気力がなくなる、頭に血が昇る感じなど皆さんは一度は経験しているでしょう。更年期に限ったことではありません。ですから、更年期専用の漢方薬が存在するのではなくて、主に「気の異常」を治す薬の一部が更年期の薬と称して有名になっているだけなのです。


Jさんには『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』を処方しました。この薬の名前の「逍遥」とは、「ぶらぶら歩く、定まらない、多彩」という意味があります。つまり、様々な症状が出現するような方に使う薬として名付けられたのです。『加味逍遥散』には「気の異常」の中でも「気うつ」に対応する生薬が含まれ、皆さんご存知の「薄荷(ハッカ)」も入っていて、発散させたり、通りを良くしてスッキリさせる効果があります。また、この漢方薬には「血」「水」のバランスも良くする生薬も含まれていますから、動悸やめまいにも有効です。
この方がもしも動悸・めまいが主な症状で「気の異常」が無い場合は、『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』を迷わず処方したでしょう。なぜでしょうか?「気の異常」が無いならば、それに対応する生薬は必要ないのです。生薬の種類が多ければ、症状に対する守備範囲は広がりますが、その分効果の切れ味は悪くなるのですから。この点が症状を見極めて処方を選ぶ「漢方薬の妙」なのですね。
2006年08月10日(木) No.203 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方22〜食欲がなくて元気がない〜


『31歳、Iさん、女性。最近、どうも食欲がない。お腹をこわすことが多い。やる気もないし、元気が出ない感じがしてたまらない。内科で消化器の検査をしたが特に異常なしといわれ、友人に漢方薬を試してはと云われて来院。』
Iさんのような方は結構いらっしゃいますし日常よくあることですが、これといった原因が見当たらないことも多いですね。食欲の低下は、単に消化器の問題ではなく、気分の問題のこともしばしばあります。東洋医学では「五臓」という考えの中で「脾」という概念があるのですが、これは西洋医学の「脾臓」とは全く異なり、「消化吸収機能」そのものを意味する言葉です。そもそも「食べる」ことでエネルギーを補充するのですから、「脾」の機能低下はいろいろなトラブルの原因にもなります。
では、「脾」の機能低下をどうやって見抜くのでしょうか?顔色?それもありでしょうが、東洋医学では「胃内停水」「正中芯(セイチュウシン)」などというお腹を触って調べる手段もあります。前者は、横になって胃のあたりに軽く手を当てて上下に揺さぶるとポチャポチャと音がすることをいいます(知り合い同士でやってみて下さい)。後者は、お臍のすぐ上か下のお腹の真ん中に鉛筆の芯みたいものがあることをいいます。コツは指を軽く立てて左右に軽く押してみます。このサインがある方は「冷え」や「気虚」(詳細は以前の号参照)があることも多く、「人参」を使うとよいといわれています。


私はIさんには『六君子湯(リックンシトウ)』を処方しました。この方には「正中芯」がありましたので、「人参」が含まれた薬がいいはずです。『人参湯』という「人参」そのものの名前がついている薬があるのですが、私はあえて『六君子湯』にした理由はIさんには「胃内停水」もみられたことにあります。これがあるということは「余っている水をさばく」生薬も使いたいわけです。となると、『人参湯』よりは『六君子湯』の方が「水をさばく」作用が一枚上手ですし、かつ「人参」も含まれているのでこちらを処方したのです。
この方には『人参湯』でもそこそこ効くとは思いますが、基本骨格が「人参」という生薬以外に、患者さんの状態によってより有効と思われる生薬が含まれている方がいいはずです。こういう選択ができるのも漢方薬が生薬の複合剤(寄せ集め)だからなのです。
2006年07月10日(月) No.198 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方21〜ニキビに効く漢方が扁桃腺炎にも効く?〜


今回は、「ニキビ」と漢方薬にまつわるお話です。
『24歳、Hさん、女性。子供の頃からアトピー性皮膚炎があるが、成人してからは悪化していない。最近ニキビが気になり、女性ホルモンの乱れから起こることも友人..
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2006年06月10日(土) No.194 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方20〜アレルギー性鼻炎に小青竜湯が効かない?〜


この季節になるとアレルギー性鼻炎で悩む方も多く、国民病のように云われています。漢方薬では、この分野では『小青竜湯(ショウセイリュウトウ)』(以前に紹介済み)が大変有名で、すでに処方されている方も多いと思います。しかし、コレで効かない方もいますね。どうしたらいいのでしょうか?効かないのはどうしてなのでしょう?
以前、『小青竜湯』は「表寒」(体表が冷えている)の人向けの薬であることや、五味子(ゴミシ)という生薬がゆるんでいる鼻粘膜を絞める作用があることはお話しました。鼻水が止まらないときは、漢方医学的には大きく二つの面から診ていきます。鼻水ですから、当然「水」をどう処理するかです。鼻水でも「垂れるのか?詰まって苦しいのか?」で方針は異なります。詰まっているときは『小青竜湯』では無効なことはしばしばあります。こういう場合、辛夷(シンイ)[モクレンのつぼみの一種]という生薬が詰まりを改善する代表選手です。(昔はこのつぼみを鼻の穴につっこんだみたいです)

もう一つは、「寒熱」の考え方ですが、鼻炎のときに「身体が冷えたときに悪化するのか」「鼻の中が熱がこもった感じがして苦しいのか」というように、「冷えるのか熱いのか」で治療も変えなければいけません。熱感があって苦しいときは、清熱剤が有効なはずで、逆に温める薬では本来の逆のことをしていることになります。『小青竜湯』が効かない中には、このパターンも考えられます。「熱証」の見分け方の方法は以前お話したと思いますが、ご自分で舌を鏡で観て下さい。舌が赤っぽいのが「熱証」、青白っぽいのが「寒証」タイプです。簡便なので参考にして下さいね。
このような考え方があれば、「アレルギー性鼻炎ときたら小青竜湯」といった短絡的な処方はなくなりますし、本来はそうやって処方すべきなのです。ですから、「鼻が詰まって息苦しく、鼻の周りに熱感がある」ときには、「熱証」向けの薬に辛夷が含まれていると効果的かなという発想になりますから、『辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)』などが適応のお薬となるわけです。アレルギー性鼻炎には漢方医学では「水」「寒熱」から薬をその人の状態に合わせてあげることが大切です。
2006年05月10日(水) No.190 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方19〜春先になると調子が悪い〜


春も少しずつ近づいてきましたが、今回の症状の人って結構いらっしゃるのでは?
『35歳、Gさん、女性。毎年のことだが春先になると身体の節々が痛くなり、手が腫れたりもする。心配でリウマチの検査をしたが異常..
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2006年04月10日(月) No.185 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方18〜ストレスによる体調不良〜


今回の患者さんは、「何となくあちこち調子悪い」という訴えの方です。
『42歳、Fさん、女性。胃痛、頭痛、肩こりがある。仕事に対する不満もあり、「やってられない」とこぼし、友人に漢方でもと勧められて来院。』
Fさんは、確かにお話を聞いても仕事のストレスが原因していることは分かりました。
内科や脳神経外科でも特に異常はないと云われたようです。こんな方は結構いらっしゃいますよね。ストレスが原因で症状が現れている場合、ストレスそのものを取れないにしても軽減してあげなければなりません。

さて、東洋医学的にはストレスで身体に変調をきたすのは、いわゆる「気の異常」です。「胃痛」をこの状態が原因と限れば、「気うつ」(詳細は以前の号を)によるものと推測されます。では、「頭痛」はどうでしょう?これも「気の異常」が原因とすれば、「気逆」ですね。以前にもお話したように「気逆」は気が下から上に上昇し、上に充満して熱などが発生することもあります。イライラして頭痛が起こるのは、この状態に近いでしょうね。Fさんの「肩こり」も「お血(オケツ)」(詳細は以前の号を)によるものではなく、「気逆」で説明がつきます。
つまり、「胃痛・頭痛・肩こり」の3つのキーワードから「気の異常」にしぼってとらえると「気うつ」「気逆」という診断に行き着いたことになります。もっというと、「気逆がメインでそこに気うつもある」ということになります。となれば、漢方薬はいわゆる「気逆」に対応する生薬の中でも「気うつ」にも対応していればより良いということは当たり前ですよね。いいですか。漢方薬って勘で選ぶものじゃないのです。選んだからには、「○○という状態」を分析していないといけないのです。そうでなければ、「頭痛」一つにしても、漢方薬は決められません。『頭痛に○○』というキャッチフレーズは漢方薬には通用しないのです。漢方医学は薬を決めるのが大切なのではなく、患者の状態を分析する過程がカギです。これが実行されれば、薬は自ずと決まるはずなのですから。
2006年03月10日(金) No.180 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方17〜冷えるとお腹が痛い〜


今回の患者さんは、「冷え」を主訴とする方です。
『28歳、Hさん、女性。とにかく手足が極端に冷たい。寒いときは体の芯から冷える。
風邪をひくと悪寒がひどく全身が冷えて仕方がない。漢方薬が希望にて来院。』
Hさんは、実際に触ると本当に冷たい手足でした。このような方は、温める生薬を使わざるを得ません。「冷え」には表(体の表面)と裏(体の内部)がある話は以前しましたが、「悪寒」は「表寒」(表の冷え)のサインですから表を温める生薬を使えばよいのですが、Hさんは「体の心からの冷え」もあるので「裏寒」(裏の冷え)にも対応しないと症状は良くならないと考えました。
ただし、このような方に大切な問診事項があります。それは『冷えるとお腹が痛くなりませんか?』の一言です。この問診で私は当帰四逆加呉茱萸生姜湯[トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ]という舌を噛みそうな名の薬を処方しましたが、その後体がポカポカする感じがわかるとのことで、しばらく薬を続けてもらうことにしました。
この薬は、単なる「冷え」の薬ではありません。確かに体を温める生薬が配合されていますが、薬の構成を調べると実は建中湯[ケンチュウトウ]つまり「お中を建て直す」が基本骨格なのです。
この薬は「冷房が強い部屋にいると、お腹が痛くなる」人にも、よく処方しますし、こういう方は夏場でも「冷え」がつらいタイプに多くみられますね。

さて、「冷え」は以前からお話しているようにいろいろなパターンがあり、その状態に合った漢方薬を選ばなければなりません。ですから「○○さんが効いた漢方薬がほしい」と言って受診される方がいますが、これは間違いなのですね。やはり、きちんと診察をしなければなりません。Hさんに『冷えるとお腹が痛くなりませんか?』の問いかけた理由はただ一つです。それは処方する薬を決めたいからです。
漢方医学の問診は余計なことみたいな事をたくさん聞きます。それは各々に漢方薬を決めるカギが隠されているからで、決して無駄な事を聞いているのではありません。漢方薬は生薬の寄せ集め(複合剤)ですから、様々な症状に対応できる反面、それだけ情報収集も必要ということです。
2006年02月10日(金) No.175 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方16〜気になるのぼせ〜


今回の患者さんは、「めまい・ふらつき・のぼせ」を主訴とする方です。
『31歳、Gさん、女性。元々健康。以前から入浴時にのぼせを自覚していた。最近、のぼせに加えてめまい・ふらつき感が出現。気になって耳鼻..
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2006年01月10日(火) No.170 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方15〜不快な汗〜


前回まで「気の異常」に関わる話をしてきましたが、今回より様々な症例を紹介しながら、漢方薬の妙について述べましょう。さて、今回の患者さんは、「汗」がキーワードです。
『58歳、Fさん、女性。やや肥満。体全体の熱感、じっとりとした汗が不快でたまらないとの事で来院。』
この方は、「むくみ」もありました。「むくみ」というと『水毒』(以前の号で確認を)が思い浮かびますね。『水毒』は基本的には「水」が余っているところと足りないところのアンバランスでしたね。それを見分けるには「口の渇き」ですが、Fさんはありませんでした。となると、「水の偏在」なくて「水が余っている」イメージなのです。しかも熱感もあります。水が余っている箇所には熱はこもりやすいのです。
私は越婢加朮湯[エッピカジュツトウ]を処方しました。飲み始めてすぐに尿の量が増え、全身のむくんだ感じがとれて、熱感も徐々に改善したとの事でした。
Fさんの肌をさわるとジトーッとした湿った感じなんですね。つまり、水が「表」(以前の号で確認を)に余っている状態ですから、この余った水を捨ててやればいいのです。
「たまったものは捨てる」という理屈は分かりやすいですよね。

そこで「表」の水を「裏」に引き込む生薬を選んだのです。麻黄[マオウ]と石膏[セッコウ](以前の号で確認を)の組み合わせです。これは強制的に排水してくれて、石膏には「冷やす」作用もあるのでFさんには一石二鳥でした。でも強力な薬なら、胃を荒らすのでは?と思う方へ。ご心配なく、ちゃんとこの薬には胃を守る生薬も含まれていますから。比較的長期間飲まれても胃の負担は少ないです。
あれ?麻黄は桂枝[ケイシ]との組み合わせで「発汗作用」あるのでは?と思った方?このシリーズを熟読してますねえ。そうなんです。麻黄は基本的に「水」を外へ捨てる生薬なのですが、「表」に汗として捨てるときは桂枝と、「裏」(体内)に捨てる(尿など)ときは石膏と組むというように生薬でも仕事によって相手を選ぶのです。人でもそうですね。いい仕事するときは、組む相手が大切です。
2005年12月10日(土) No.165 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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