タイトル

女性と漢方(54)〜更年期障害と漢方薬(2)〜


『49歳主婦Nさん。いつもお酒を飲んでいるように顔が真っ赤で恥ずかしいとの訴えでした。5年前に他院にて子宮筋腫のため子宮を摘出する手術を受けたとの事。去年から、のぼせと顔面の紅潮が起こり始めたようです。漢方薬を試したい希望で来院されました。』
週に数回起こる頭痛と汗を伴う顔面の強いのぼせ、いつもある下腹部の張った感じ、不眠、イライラ、頻尿…と症状もたくさんありました。Nさんは、小太りの体型で頬はたしかにお酒を飲んだように赤く、足の皮膚にはちょうど糸ミミズのような細い血管(細絡といいます)が浮き出ていました。お腹を押すと、左下腹部は痛がります。これらは東洋医学的には典型的な「お血(オケツ)」(以前に紹介済み)の症状で、血の巡りが悪化し滞った状態で、Nさんのように小太りの中年女性(失礼!)によく見られ、また手術などによって必ずしもではないのですが起こりやすくなります。
Nさんには、熱をもった「お血」で便秘もありましたので、『桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)』を処方してみました。3日間で頭痛・のぼせ・発汗・便秘が、一ヶ月でイライラや不眠などが消失したようです。


「桃核(トウカク)」とは「桃の種」という意味で、停滞した血を巡らせる作用があります。つまり、『桃核承気湯』は「桃の種」が成分として含まれ、「承気」とは、熱をもち上昇した気を下に受け流すことを意味します。いわば、体力の水分・栄養分である血を動かし、活発な生命サイクルを起こさせる漢方薬ともいえます。Nさんのような上半身ののぼせや熱を下げようというのがこの薬の名前の由来です。
Nさんが次回来院したときは、「お酒を飲んだのではなく、桃の花のような素敵なお顔ですよ。」と声をかけようかなと思っています。とにかく、『桃核承気湯』はNさんに回復の兆しを与えたお薬のようですね。
2009年03月06日(金) No.342 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(53)〜カゼを引きやすくて困る〜


『71歳Mさん。内科でいわゆる「感冒薬」をしょっちゅう処方されている方ですが、二日前からまた体調を崩してカゼを引いたとの事。いつもの薬を飲んで安静にしていたが、微熱が続き心配で来院。漢方薬を試したい希望で来院。』
このとき、Mさんには『桂枝湯(ケイシトウ)』を処方し、なんとか切り抜けましたが、普段飲む漢方薬?がほしいとの希望で、高齢な点も考慮して『香蘇散(コウソサン)』を処方してみました。この薬はご本人が大変気に入って、これで精神的にも落ち着きよく眠れるとの事でした。長期で飲みたいという希望でしたので、一日一回夜服にしてもらったところ、「最近、カゼを引かなくなって、とても調子がいい」とおっしゃっていました。


『香蘇散』は胃腸に障らない穏やかなカゼ薬というイメージで使われています。激しい悪寒のあるもの、高熱のもの、関節痛の強いもの、鼻水の多いもの等には適しません。『香蘇散』には「紫蘇(シソ)」が含まれており、「気剤」という点からも気を晴らしてくれる作用があるのは以前もお話しました。「○○散」という名前のものは、香りを楽しんでから内服するのが良いといわれていますが、Mさんは「飲む前に袋を開けたときの紫蘇の香りみたいのが妙に落ち着くんですよね」と、既にこちらが言う前に適切な飲み方をご自分で実行されていました。
漢方を続けていてカゼを引かなくなったという方は多いのですが、Mさんのように夜1包を飲んでいてカゼを引かず体調が良いという方は初めてですね。
2009年02月06日(金) No.338 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(52)〜なかなか咳が止まらない〜


『49歳Nさん、教員。内科で「うつ病」の薬が処方されている方ですが、二ヶ月ほど前に軽い熱が出た後、咳が止まらないそうです。二週間しても一向に軽くならないので、内科を受診して、「マイコプラズマ感染症」の疑いにて精査をしましたが、特別な異常は認められませんでした。そこで、「うつ病」の傾向から咳が止まらないのかもしれないとのことで抗うつ剤と精神安定剤が処方されたようです。しかし、咳は少しも変わらず、むしろ眠くなるので、飲みたくないとの事。漢方薬を試したい希望で来院。』
Nさんには『麦門冬湯(バクモンドウトウ)』を処方してみましたが、効きませんでした。そこでインフルエンザや肺炎の後に治りにくい咳が続くときに用いる『竹茹温胆湯(チクジョウウンタントウ)』を処方しました。変更後はたしかに咳は楽になりましたが、完全に止まったわけではありません。


「学校では声を張り上げないと子供たちのパワーに負けちゃいますから、喉を休めようとしても休めないんですよ」というNさんの一言に、この方にはパワーを補給しないと漢方薬の咳止めだけでは治らないのではと感じました。そこで、治っていく力が落ちて、いつまでも治らないと考えれば、「柴胡(サイコ)」という生薬が含まれた薬の出番です。咳を止める薬にこだわるのを止めて、『柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)』に変えてみたとたんに、咳はほとんど出なくなり、声がかすれなくなりました。
『柴胡桂枝乾姜湯』は咳をとめる薬ではありません。落ちている免疫力を活発にして、
からだを元の状態に戻していくイメージの薬です。ですから、Nさんのように体力を消耗して免疫力が落ち、カゼばかりひくようになって、咳が止まらないときには、咳もピタリと止まり、からだもシャンとする場合がよくあります。実は、この薬は更年期で疲れきった方にも有効です。Nさんには更年期のことは一切触れませんでしたけど…。
2008年12月29日(月) No.334 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(51)〜しつこい副鼻腔炎〜


『5歳Mちゃん。女性と漢方のテーマですが、今回は男児です。副鼻腔炎といわれて1年以上経つのですが、一進一退を繰り返し、病院通いと縁を切れないようです。鼻汁は出にくく、鼻閉がひどく、いつも口を開けているとの事。かぜもひきやすく、いったんひいてしまうと、鼻汁が止まらず、大変らしいです。漢方薬を試したいと母親に連れられて来院。』
Mちゃんには『葛根湯加川 辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)』を処方してみました。この薬は有名な『葛根湯』をベースにしているので「麻黄(マオウ)」という薬効の強い生薬が含まれているのですが、なぜか子供は「麻黄」に強いのです。Mちゃんにも成人量に近い位に増やしても大丈夫でした。また、子供は良くなる経過も早いので、大変分かりやすいものです。
一ヶ月後、鼻汁がよく出るようになり、鼻閉が取れてすっきりした様子との事でした。
三ヶ月で、鼻の症状はかなり良くなりました。おもしろいと感じたのは、以前は車酔いがひどいお子さんだったようですが、最近は車に乗っても酔わないというのです。


今、Mちゃんは7歳になっていますが、お母さん曰く「鼻の症状が取れてから、落ち着きがでてきた感じがします。学校の成績も良くなって、驚いています」。その子の同級生の母親同士で、子供の成績の話題が出たところ、「頭の良くなる漢方薬」があるらしいとうわさ?になったらしいです(笑)。
Mちゃんはもともと頭の良いお子さんで、副鼻腔炎のため集中力が悪かったのでしょう。漢方薬の服用によって鼻の状態が改善するにつれ、頭の働きが良くなるのは不思議なことではないと思います。
2008年12月03日(水) No.330 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(50)〜アクビばかりでる〜


『48歳Kさん。やせ型のおとなしそうな奥様で、ご主人の後ろに付き添うようにして来院。顔に生彩がなく、「お疲れのようですね」とご本人に問いかけると、ご主人が話をさえぎるように「疲れているとは思うのですが、いつもよく寝てばかりいる割には、アクビばかりするんですよ」。もう一度、Kさん自身に症状を聞いてみると、「3ヶ月前より別に眠くもないのに生アクビがしょっちゅうでるようになり、その割には寝付けないです。身体は重だるいし、食後は胃が軽くもたれます。気持ちはイライラして落ち着きません」と申し訳なさそうに話してくれました。』
Kさんには『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』を処方してみました。3日目から生アクビの回数が減り、同時に重だるい症状が軽くなり、1ヶ月後には精神的な落ち着きが自身でも感じるとの事でした。『甘麦大棗湯』は、「甘草(カンゾウ)・小麦(ショウバク)・大棗(タイソウ)」の3つの生薬のみで作られた漢方薬で、すべての生薬が甘い味がするという特徴があります。甘い味の働きは、以前にもお話しましたが、「体の緊張をほぐしたり和らげる作用」と「潤して栄養をつける作用(滋養)」という二つの働きがあります。


イライラしたときにケーキを食べる女性(笑)や、疲れると甘いものが欲しくなるのは皆さんも経験があると思います。
さて、アクビを東洋医学的に考えると、「こころ」に潤いがなくなりかつ緊張しているひとつの証拠です。なんとか緊張をほぐそうとしている試みともいえます。『甘麦大棗湯』は、甘い味によって「こころ」に潤いをもたらし、緊張をほぐす作用がある漢方薬です。甘いものでストレスを緩和しようという人間の本能的な行動をうまく薬として取り入れた漢方薬といえましょう。
3ヶ月後、外来に来たKさんの位置が、いつの間にか、ご主人の前になっていたのは私の気のせいでしょうか?
2008年11月06日(木) No.327 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(49)〜産後の腰痛〜


『31歳主婦Tさん。産後1年を過ぎるが、腰痛でいまだに悩み続けているとの事。お産自体も難産で大変だったようで、産後から鎮痛剤をもらったりしていたが、痛みがなかなかすっきり取れない。友人から漢方薬のことを聞いて当院に来院。』
整形外科的には特に異常はないと云われたようです。ぎっくり腰などの発症直後には以前紹介した『芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)』がよく効きますが、Tさんのように遷延した腰痛は漢方治療でも比較的やっかいなものです。Tさんは色白でみずみずしい肌をしており、冬は冷えにも悩まされる方でした。月経周期も不規則で、月経時には軽い下腹痛もあるとの事…いろいろ迷いましたが、時々むくんだり、めまいもするという事と冷えに注目して、まずは『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』を処方しました。以前も登場した漢方薬ですが、「むくみ・めまい」は漢方医学では「水毒」(以前に紹介)として解釈することが多く、「利水剤」という水のバランスを整える生薬を使用する場合があります。ただし、この方は「痛み」に悩まされているので、『当帰芍薬散』だけではやや作用が弱いと思い、『附子(ブシ)』という鎮痛作用のある生薬を加えることにしました。


その後の経過は、きわめて順調すぎて、一ヶ月で驚くほどに症状が改善しました。正直云って、これほど効くとは思いませんでした。『当帰芍薬散』はもともと妊娠の腹痛に用いられましたが、月経異常・妊娠・出産に伴う様々なトラブルにも広く有効な漢方薬です。当然、体質虚弱な女性の妊娠中・産後の腰痛にも有効ですが、効くためのキーワードは「冷え」「水毒」です。Tさんもその良い症例でしょう。単に「腰痛」という症状だけに注目しては、こういう処方はできません。
『附子』はトリカブトを無毒化した生薬ですが、「痛み」を取るのみでなく、『当帰芍薬散』の効果を強める作用もあるようです。ここが生薬の配合の妙でして、組む相手の効果を発揮するのは漢方薬の非常にユニークな点ですね。

2008年10月02日(木) No.321 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(48)〜寝起きの腹痛と登校拒否?〜


『小学校4年生Jちゃん。2年生の頃からしょっちゅう頭痛がおこり、朝起きるとおなかが痛くなり、学校へ行く前にはいつも泣きべそをかいている。学校に行ってしまうと学校内では全く問題はない様子との事。お母さんが登校拒否ではないか?と相談のために来院。』
おなかの調子が悪く、よく下痢をするお子さんということでまずは『小建中湯(ショウケンチュウトウ)』を処方しましたが、こちらはうまくいきませんでした。夏バテもあってかフラフラするという訴えをキーワードに『真武湯(シンブトウ)』に変更してみました。効果はすぐに現れて、朝泣かずに起きるようになったようです。下痢も軟便程度になり、気にならなくなったとの事。しかし、気温が下がる日があると(北見のように暑い日と寒い日に極端なギャップがある街は大変ですが)咳がてきめんに出現し、再び下痢にもなってしまうようでした。


以前より症状は確実に良くはなっているのですが、Jちゃんも私も何となくしっくりきません。そこで、Jちゃんのおなかを触って見ることにしました(腹診です)。みぞおちのあたりが少し硬くなっていたので、『六君子湯(リックンシトウ)』に変えてみたところ、今度は確かな手ごたえがありました。「頭痛も腹痛もなくなり、朝の起き方がしっかりしてきました。最近は全然泣きべそではなくなりました。」とお母さんがおっしゃっていました。
いまや子供もストレス社会です。子供にも泣くにはそれなりの泣く理由があるのでしょう。『六君子湯』は単なる胃薬ではないことは以前にも紹介しました。「気剤」(気の巡りを正す生薬)がしっかり配合されています。
漢方薬は、まずくて?子供にはどうも飲ませにくいし、私自身もあまり無理矢理飲ませることはしないのですが、Jちゃんはちゃんと飲んでくれています。小学生でも自分にとって必要な薬と認めると不思議に飲めるもので、効く薬は飲むのを嫌がらない傾向は確かにあるようですね。野生動物がふだん食べないような苦い植物を自ら積極的に食して体内の解毒をするという話もまさしく同じでしょうね。
2008年09月04日(木) No.317 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(47)〜じとじと汗に黄耆建中湯〜


『3歳Iちゃん(女児)。生後からしょっちゅう風邪を引きやすく、一度かかると長引いて咳や鼻水がなかなか良くならない。序弱体質で食も細い。ふだんから汗っかきで特に寝汗をよくかいている。パジャマが夜間に汗で..
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2008年08月06日(水) No.314 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(46)〜癒着?による腹痛に大建中湯〜


『80歳Hさん。30歳代に腸閉塞を含めて3回の開腹手術の既往のある方で、以来腹痛が持病?との本人の弁。お腹が張ってシクシクと痛み、便通はすっきりせず残便感が常にある。下剤を飲むと痛みが強くなるばかりでかえ..
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2008年07月03日(木) No.309 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(45)〜抑肝散が効く親子?〜


漢方医学における「肝(カン)」は、興奮や怒りなどの精神神経症状を司るところと考えられており、西洋医学における「肝臓」とは意味が異なります。今回紹介する『抑肝散(ヨクカンサン)』は「興奮や怒りを鎮める」という意味から名付けられました。
『33歳Gさん。3歳のお子さんの育児に疲れ、最近夜泣きでイライラすることが多い。マンションの隣室にも聞こえるのではないかと思うと、気を遣ってしまう。日中子供にもあたる自分が怖いとの事。友人に漢方薬も効くことがある?と聞いて来院。』
Gさんは本当に育児疲れの典型で、イラつく自分自身に困惑していました。話を聞くとお子さんもいわゆる「疳の虫」の症状でしたので、ご本人と一緒に『抑肝散』を飲んでもらうことにしました。『抑肝散』は、もともとは小児に使うことが多かった薬ですが、中国の古典にも、母子が同時に服用することで(母子同服)、母子ともに気の高ぶりを鎮める効果があるとされています。
最近は『抑肝散』が高齢者疾患にも応用も報告され、有効な治療手段が確立されていない認知症や脳血管障害後遺症患者に現れる、徘徊・暴言・暴力といったいわゆる問題行動に対して有効なことが報告されています。


私の友人の精神科医師も「暴力で手に負えない高齢者に『抑肝散』を処方したら、ふつうのやさしいおじいちゃんに戻ったよ。」という症例について先日話していました。
『抑肝散』が効く症状には、その基盤に「うつ傾向」があることがポイントですが、ストレスが加わると誰しもがその傾向が出現することは皆さんも経験があると思います。
つまり、日常誰にでも起こりうる症状であることを周囲の方も理解してあげなければなりません。Gさん親子にも効果があったようで、その後外来にお子さんと一緒ににこやかな顔で来院されました。前回も母子同服のお話でしたが、小さなお子さんがいる女性は育児を含めて精神的ストレスが多いのですから、皆さん、いたわってあげましょうね。
2008年06月05日(木) No.305 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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