タイトル

女性と漢方(68)〜ストレスを乗り切る①〜


『25歳Mさん女性。学生時代から苦にならない程度の月経痛あり。仕事を始めてから対人関係のストレスも強く、また職場の室温が異常に低く、冷えて月経痛も強くなった。特に月経2日前〜開始2日目まで腰痛や下腹痛が強く、全身にむくみが出る。胃がむかむかして食べたくない。人ごみでは気持ち悪くなる。突き上げるように吐き気がして、生唾が出てくる。3ヶ月間で体重は48㎏から45㎏にやせた。最近は手足の冷えが気になり、睡眠も不良。食欲もなく無理して食べているとの事。漢方治療を希望して来院。』


ストレスという言葉は漢方医学にはありません。しかし、ストレスとからだの変調との関係については東洋医学では独特の考え方にもとづいて古くから取り組んできました。いつもお話しているように身体の状態(証)を捉えることが大切です。例えば、胃腸が丈夫である、疲れやすい、華奢な体格など細かい要素を考えて適切な処方を決定します。
Mさんは「冷え・むくみ」の症状のみから考慮すると、前回お話した『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』が有効と一見思われるのですが、新陳代謝が衰えて冷えが著しい状態になっているうえに、生唾が止まらない(東洋医学では「喜唾(キダ)」といいます)点に注目して、まず「人参」が含まれている『人参湯(ニンジントウ)』を処方してみました。
4週間後、生唾も出なくなり、食欲も出できたようなので、もう一ヶ月飲んでもらうことにしました。その後の月経痛は一進一退であるものの、軽くなっているようでした。
むくみはほとんどなく、人混みに出ても悪心は起こらなくなったとの事です。
ストレスによって起こる症状はいろいろであり一律に述べることはできません。長期間になる可能性も大きいです。Mさんのように一度消化器症状を呈してしまった方はこちらを立て直す必要があります。「急がば回れ」ではないのですが、目先の「冷え」より
も「生唾」を伴う食欲不振が今回のキーワードです。
2010年04月28日(水) No.419 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(67)〜当芍美人〜


漢方の診断は「望(ボウ)・聞(ブン)・問(モン)・切(セツ)」という四診で行いますが、「望診」はその中でも最も重要な診断法です。患者さんを診察室に呼び入れたときの反応の仕方、姿勢、動作、立ち姿、顔色、皮膚の状態などを観察するとともに、全体的なイメージをよく見るわけです。じろじろ見られる患者さん側からはちょっと恥ずかしいかもしれませんが、漢方治療をするには若い女性であろうと「なめるように全身をくまなく観察」せざるをえません(誤解のないように)。この「望診」により、とくに女性三大漢方薬(『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』)はほぼ決まるといっても過言ではありません。


「待てど暮らせど来ぬひとを宵待草のやるせなさ」とうたわれた竹久夢二の、有名なあの絵(立田姫?)がまさに『当帰芍薬散』の「証(ショウ)」であるため、漢方医はこれを「当芍(トウシャク)美人」と呼び、この薬を使用する目標としました。すなわち、色白で、顔は面長、柳腰で立ち姿はすっきり、声は優しく耳当たりが心地よく、しぐさがおっとりしている、「ちょっと手を差しのべてあげたくなる日本美人」と漢方医の大家が称したそうですが、こういったイメージが『当帰芍薬散』にぴったりあう「証」なのです。
『当帰芍薬散』は女性の聖薬といわれ、少し虚弱な女性の身体を温め、「水毒(スイドク)」(体内の水のバランスが悪い状態)をとり、月経を整え、痛みを去り、受胎を安んじるといわれます。「水毒」の症状には、頭痛・めまい・嘔気などがみられることがよくありますから、「当芍美人」は実際にフラフラすることが多いのでしょう。また、この薬は「冷え症」の中でもむくみが出やすい方にも有効です。
みなさんは『当帰芍薬散』の「証」ですか?このコラムを読まれた後は、外来に「自称、当芍美人」が多く来られるかもしれません(笑)。
2010年04月01日(木) No.414 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(66)〜かぜをすぐひく〜


風邪を発症することを「かぜをひく」といいますが、「かぜになった」とはあまりいいませんね。よく考えれば、妙な言葉だと思いませんか?普通「胃潰瘍になった」「怪我をした」といいます。驚くべきことに自分でも気づかないうちに、皆さんは漢方医学的な発想をしているのです。風に乗って、もともと外にあった「邪」が体内に侵入することを「邪を引っ張り込む」ということで「風邪をひく」と表現しているのです。


一般に風邪をひきやすい人は、基本的な体力が不足していて、すぐに疲れる「気虚(キキョ)」(詳細は前号参照)の傾向があります。すなわち、自己免疫力が弱く、風邪だけでなく、いろいろな外からの邪による病気(様々な感染症)にかかりやすいとされます。このような人は、常日頃から漢方薬などを服用して、精神・身体的に丈夫になっておくことも大切です。
漢方医学的にはいろいろな考え方がありますが、まずは、「人参(ニンジン)」「黄耆(ジンギ)」(あわせて「参耆(ジンギ)剤」といいます)を含んでいる漢方薬で体力を補ってあげることをよくします。虚弱ぎみで胃腸があまり強くない場合によく用いる『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』は、その代表格です。風邪症状は軽いが何度も繰り返し、あわせて精神不安・不眠がみられるときは『柴胡桂枝湯(サイコケイイシトウ)』も併用したりもします。また、子供の頃から中耳炎や扁桃腺炎をよくおこして、副鼻腔炎(ちくのう)で耳鼻科通いをしていた経験があり、成人してからも、ちょっとしたことで風邪をひいていつもグズグズするといったタイプには『柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)』などを普段から服用されると、風邪がひきにくくなることは漢方医学的に知られています。
漫然と「かぜには『葛根湯(カッコントウ)』」をお飲みになっている方は、ご自分の体質にあった薬で「未病」(テレビのCMにも出ていますが)に対する策を講じてもいいのではないでしょうか?
2010年03月04日(木) No.408 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(65)〜桃源郷〜


こういう言葉を聞かなくなって久しいですが、古来、楽しく裕福な、夢のような暮らしができる理想郷として描かれているのが『桃源郷』です。山中遠く、迷い込んだその地には桃の花が咲き乱れ、人々皆楽しく、憎み合わず、子供から老人まで共に助け合い、病気もなく長寿を受け入れ、生き生きと仕事をしているという世界のことです。まるで現代社会のパラドックスのようですが、漢方では、桃は長寿の食べ物とされています。


昔の人は桃はとても身体に良く、鬼のような人をおだやかにすると考えていました。「桃太郎伝説」の中で、鬼(=邪悪なもの=病気)を退治してくれるのは、山から流れてくる桃の中から飛び出した桃太郎(=桃の種=「桃仁(トウニン)」)であり、子供に恵まれなかった夫婦(=高齢不妊症)が、桃を食したために(=「お血(オケツ)」が改善)、子供ができたという説は漢方医学を基礎としたありそうな話なのです。「桃仁」は「お血」(詳細は前号を参照)を改善(=血液の滞りを改善)する効果をもつ生薬の代表選手であり、それを配合した『桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)』は最も強い「お血」対策の漢方薬です。この物語は、「桃仁」のもつ強い「お血」を改善する効果により、長期不妊の夫婦が元気な男の子を授かるというストーリーと解釈すれば、昔、邪鬼や動物の霊に憑かれたように考えられ、古書にも「狂人の如く」と記されていますが、まさにそのようにみえた月経痛でひどく苦しむ長期不妊(現代医学では子宮内膜症)の患者を治療(=鬼退治)できたのは、まさしく桃太郎(=「桃仁」)だったのでしょう。
このように、桃から生まれた「桃仁」が女性の疾患の治療では欠かすことのできない「お血」対策の生薬であることを知ると、漢方薬にも少し親しみが持てるのではないでしょうか。
2010年02月04日(木) No.402 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(64)〜漢方製剤の保険外し?〜


過日の「行政刷新会議」にて「漢方製剤の保険外し」が答申されました。この会議側の論理は「薬局・薬店でも漢方薬は買えるものである」との主張のようであります。漢方製剤の保険外し問題は、17年前にも議論されたこ..
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2009年12月29日(火) No.396 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(63)〜更年期の湿疹?〜


『48歳主婦Mさん。2年程前から手から肘、足首に赤い湿疹が出現し、ひどく痒い。軟膏をつけているがあまり有効ではない。手のひらは赤くゴワゴワした感じになり、恥かしくて人前に出せない。友人に聞いて漢方薬を試したいとの希望で当院に来院。』
「漢方薬で治したい」という場合は他の症状を聞かなければなりません。まず、生理の周期が狂い始めており、1年に5回位に減っており、4ヶ月もあいたときもあります。その代わりに生理痛がひどく、ときどきのぼせて汗が吹き出るし、頭痛・便秘もあるとの事。足の冷えは昔からあり、手足の湿疹は冬の方が多くなるようです。
生理のトラブルもあり、冬に悪化するというので、Mさんにはまず『温清飲(ウンセイイン)』を処方しました。この薬はいろいろな方に使ってよく効いている薬なのですが、いかんせん、とても苦いです。しかしながら、いつもお話するように効く方は案外飲んでくれるのが不思議な点です。
Mさんの場合には飲み始めて2週間で、手足の湿疹は消えました。それと共に、のぼせがずっと楽になったようでした。ところが、そのまま飲み続けていると、胃は重い感じがするとの事。


『温清飲』は『四物湯(シモツトウ)』と『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』を合わせた薬で、後者の薬は実証(詳しくは以前の号を)用のかなり強い薬です。Mさんはそれほど実証タイプではありません。こういう場合は、西洋医学的には胃薬を飲んでもらいながら飲み続けてもらうこともありますが、『温清飲』の『黄連解毒湯』の成分を減らすという手段もあります。そこで、『温清飲』をバラして、『四物湯』は通常の量で『黄連解毒湯』は反量に減らしてみました。この方法はうまく決まって、胃の調子は改善されて全体的に体調は良好になりました。漢方薬は生薬を合わせて作られていますから、こういう調整が可能なわけです。
その後は、Mさんの手足の湿疹と更年期障害的な症状は、ほぼ解決していますが、あとは顔のシミを何とかできないかと欲張っています。それには、もう少し時間がかかるのではないかと思います(笑)。
2009年12月03日(木) No.390 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(62)〜インフルエンザと漢方薬〜


今回はインフルエンザと漢方薬に関するお話です。世間では抗ウイルス薬なるものが浸透しているかと思いますが、長い歴史の中で当時のインフルエンザと予想される疾病が流行するたびに戦ってきた漢方医学はこれまでと同じように、その役割を果たすことが出来るのでしょうか。
インフルエンザの治療には、『麻黄湯(マオウトウ)』をはじめとする漢方薬が『傷寒論(ショウカンロン)』(漢方医学の古典)には多く用いられていました。これらの処方は、多くの場合、有効ですが、『傷寒』という病状はインフルエンザと似てはいますが同じではないようです。『傷寒』はインフルエンザの特殊な形ではないかと推定されています。


A型・B型に対する『麻黄湯』と抗ウイルス薬をそれぞれ単独に投与した比較では、『麻黄湯』は抗ウイルス薬と同等の効果があり、特にB型では『麻黄湯』の効果の方が優れているという結果が出ています。また、『麻黄湯』を抗ウイルス薬に併用することで、抗ウイルス薬のみよりも、解熱に要する時間が短かくなり、かつ頭痛や全身倦怠感が続く日数も短くなったという報告も出ています。
抗ウイルス薬との併用は、通常の解熱薬(西洋薬)よりも『麻黄湯』との併用の方が治るまでの日数
が短く、『麻黄湯』を治療の初日に4〜5回(通常量の薬3倍)飲んでもらうとこの効果はさらに増すとの報告もありました。ただし、インフルエンザを漢方薬で予防できるという報告は今のところありません。しかし、漢方薬の理論から「風寒の邪(ジャ)」を身体に進入させない処方を考えて継続して飲んでもらうことで、あるいは予防できるかもしれません。
現代の我々は、インフルエンザに対し、マスク着用、うがいの励行などの一般的な予防法、ワクチン接種や抗ウイルス薬服用など、医療的手段による予防と治療など多くの手段をもっています。この中に漢方医学による治療をうまく組み込めれば、従来よりもかなり有効な対処法になるかと思われます。
2009年11月05日(木) No.384 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(61)〜不眠とうつ病〜


『30歳Sさん女性。第一印象は「さわやか」な方ですが、主訴は不眠とうつ症状でした。そのため二ヶ月前から休職中。眠れなくなったのは1年半前からで近くの内科にかかり、眠剤をもらいましたが、それでもよく眠れず、一年前から精神科にかかりました。「うつ病」の診断で抗うつ剤と眠剤をもらっていますが、3時間位で目が覚めてしまい、その後追いかけられる夢や怖い夢を見て、朝起きたときから気分が滅入ってしまう毎日だといいます。友人の紹介で当院に来院。』
Sさんからお話を聞いても不眠の決定的な理由は出てきません。「不眠」と「うつ」から離れて最初に記入された自覚症状の欄をみると、本人の「さわやかさ」とは逆に調子の悪い点(胸やけ・胃もたれ・便秘・頭痛・肩こり・むくみ・手足の冷えなど)が目につきます。これだけ体調が悪くて「眠れない」といいながら、明るくさわやかに振舞っているのはなにか不自然です。まるで、更年期かと思えそうな調子の悪さです。


「寝る頃になるととても気分がふさいできてベッドでじっとしていると急に涙が出てきて止まらなくなる。しばらく泣いてから眠るという感じ。」という状態で、原因が何であれSさんは眠るのに四苦八苦していました。まずは、そういう涙が出て止まらない状態に使うとよく効いてくれる『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』と、それと同時に夢に見る内容があまりよくないようなので『抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)』を処方しました。
2週間たってSさんの反応はかなり良いものでした。「お薬を飲んでから、頭の中がすっきりして寝る前にあれこれ考えなくなりました。最近は4時間眠れるようになりました。」と聞いて、4時間は決して眠れたとは思えないのですが、本人はニコニコして報告してくれました。その後、数ヶ月して、お薬を取りにきたときは、「最近7時間眠れています。」との事。
この症例は、私としては「できすぎ」でして、通常はもっと手こずるというのが正直な感想です。この両者の薬は、共に精神安定剤にはない独特の安定のさせ方をしてくれますが、つくづくこういう薬を作り出した先人の医師に感服するばかりです。
 

2009年10月01日(木) No.378 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(60)〜なぜか左半身がしびれる?〜


『68歳Rさん女性。長年の身体の不調をかかえて来院。症状は複雑で経過も更年期のころからで経過が長い。頑固な頭痛とカゼをひきやすいこと、胃が弱いのは15年以上になる。ここ3、4年は症状がさらに悪化し、身体の..
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2009年09月03日(木) No.372 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(59)〜夏場になると下痢をする?〜


『46歳Q女性さん。数年前から夏場に週の仕事始めの月曜になると、一日だけ下痢をするとの事。しかし、秋になると治る。漢方治療にも興味があり、来院。』
話を聞く限りでは仕事のストレスが原因という印象ですが、Qさん自身はストレスとは無縁?のような大らかな性格です。下痢は暑さから生じるのではなく、お腹が冷えるときになりやすいようです。夏場にクーラーで冷えすぎるなら話は分かりやすいのですが、それも無し。冷たいビール好きでもないらしく、困ってしまいました…。
Qさんが急に思いついたように口走ったのは「夏といっても6月位からなんです。そういえば、下痢が起こるのは、釣りの翌日ですね。」聞くところによると、渓流釣りで腰まで浸かりながら一日中楽しむというのです。6月といえども、まだ川の水は冷たく、そのためにお腹が冷えきってしまい、翌日の月曜日には下痢となったわけです。
原因が判明したところで、Qさんにはお腹を温め下痢を止める『真武湯(シンブトウ)』を処方しました。また、釣りには使い捨てカイロを携帯してもらうように指導したところ、見事に下痢はおさまったとの事です。


『真武』とは玄武のことで、北を支配する神様の意味です。漢方医学の五行論でいえば、北は水の行で、寒さ・冬・水分などと関連があるとされています。つまり、『真武湯』は冬のように体が冷え、下痢や浮腫など水が貯留した状態を治療する漢方薬といえます。
『真武湯』のように、漢方薬には四方を支配する中国の神様の名前をつけたものがいくつかあります。例えば、『白虎湯(ビャッコトウ)』の『白虎』は西方の神様で、季節は秋、白と関係があり、この生薬には、白い石膏が含まれ、体の熱を冷ます働きがあります。つまり、夏に起こるような体のほてりや熱を取り除き、秋のようにさわやかにしようという漢方薬です。
Qさんのように、原因さえわかれば、薬の選択には苦慮せずに済みますが、なかなか初診の患者さんから隠れた?原因を探しだすのはご本人からお話して頂かない限り難しいケースが多いですね(苦笑)。
2009年08月05日(水) No.367 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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