タイトル

女性と漢方(74) 〜慢性疲労?(その2)〜


『65歳Mさん。夫の糖尿病の看護に心身共に疲れきっている様子。夫はわがままで、食事療法をやってみても、なかなか言うことをきかない。こんなに私が夫のために努力しているのに、何かむなしい日々が続くとの事。「こころ」はあせり「身体」は疲れる。約三ヶ月前から、生あくびがしょっちゅう出るようになり、身体が重く、イライラして気分が落ち着かない。不眠もあり、よく夢もみるようになった。食後は胃のもたれ感がある。夫と一緒に来院。』
Mさんは夫の陰に隠れるようにして来院されました。小柄でやせたMさんに比べ、糖尿病の夫は大柄で肥満体型の方でした。2回目の来院のとき、私はふと気がつきました。
隠れているように感じられたのは、夫の体格のためではなく、Mさん自身に何か精気が感じられないためであると。「Mさん、何かお疲れのようですね。」ときり出すと、すかさず夫が「そうなんですよ。こいつはいつもだるいだるいって元気ないんです。気合いが入ってないんでしょうね。」と答えます。そこで夫には席をはずしてもらい、次回の診察はMさん一人で来ていただいてからお話を聞くことにしました。その時にようやく、先に書いた内容を弱々しい声でぽつりぽつりと語ってくれたのです。


Mさんには『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』を飲んでもらうことにしました。
2週間で諸症状の改善傾向がみられ、一ヶ月後には精神的にも落ち着くようになったとの事でした。この方は看護からくる疲れが原因で、そのために諸症状が出現したといえます。『甘麦大棗湯』は漢方医学的には、「こころ」を潤し安定させ、胃腸の働きを調える作用があり、甘くて飲みやすく、子供のひきつけ・夜泣きにも用いられます。生薬成分はほとんど食品みたいなものなのですが、なぜかよく効く症例が多い不思議なお薬です。
さて、2ヶ月位経過した頃でしょうか。診察室での奥さんと夫の位置が入れ替わっていることに気づきました。夫の前にMさんがいるのです。「先生、この人、いつも腹一杯食べちゃうんです。治療する気があるんでしょうか?先生からビシッと言ってやって下さい。」実にたくましいのは女性のパワーです。世の中は女性を中心に回っていることに気づかないのは男性ばかりなのです(笑)。
2010年11月04日(木) No.449 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(73)〜朝起きられない中学生〜


『14歳Kさん。学校へ行く気はあるのだが、朝が特に調子が悪くて起きられない。ここ数ヶ月は特に調子が悪く、半分位しか登校していない。小児科で検査を受けたが、大きな異常はなく「起立性調節障害」といわれた。薬..
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2010年10月01日(金) No.444 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(72)〜肩こりに葛根湯が効かない〜


『53歳Iさん。従姉にあたる女性ですが、うなじあたりが凝るので漢方薬でいいのはないかとの相談でした。』何種類か漢方薬を手持ちにある人なので、とりあえず『葛根湯(カッコントウ)』を飲んでもらいましたが、全..
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2010年09月02日(木) No.439 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(71)〜不定愁訴に香蘇散〜


『57歳Hさん。とにかく多彩な症状(後述)があり、内科で安定剤を処方してもらっている。飲むと眠れるが、漢方薬を飲んでみてはと知人に勧められて来院。』
Hさんの話によると、昨年から、娘の結婚のことでいろいろと心を痛め、寒気がしたり、気分が変になったとの事でした。毎日眠れなくなり、精神科で「抗うつ薬」を三ヶ月処方され、娘の結婚とともに調子が良くなるやいなや、夫が病気となり、心身ともに疲れたら、また具合が悪くなりました。特に胃が悪く、胸やけがして、胃腸の精密検査を受けたところ、特に異常なしでした。
最近はカーッと体が熱くなり、汗が出る。しばらくするとスーッとひいて逆に寒くなる。精神的なことで気を遣うと肩がこって仕方がないようです。一週間前に、娘の誕生日で外食をした際、フランス料理で自分は嫌いなのですが、我慢して食べたらしく、それ以来、胃がむかついて苦しいといいます。


話を聞いていると、一部は更年期障害のような症状ですが、どうもHさんは生来神経質で、生真面目な性格に感じました。胃腸虚弱な方のようでしたので、『香蘇散(コウソサン)』を手始めに内服してもらいました。
2週間後、飲んでいると気分が良いとの事でしたので、他の漢方薬は併用せずに二ヶ月飲んでもらいました。すると「自分でも気分が明るくなった感じがします。体全体?が調子いいんですよ。」との事。その後、半年近く飲んでいただきましたが、調子がいいというので薬を中止しました。
『香蘇散』は以前も紹介したことがありますが、「気」を発散させる作用があります。
元来は、『葛根湯(カッコントウ)』などはもちろん飲めないような胃腸の弱い方向けの感冒薬として用いられたのですが、Hさんのような「血の道症」「不定愁訴」などで普段から胃が弱い方には、とりあえず飲んでもらう価値は十分ある漢方薬です。
2010年08月05日(木) No.434 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(70)〜くしゃみが止まらない〜


『59歳Sさん。花粉症で薬局にて『小青竜湯(ショウセイリュウトウ)』を購入して飲んでいるが効かないとの事。別な漢方薬?を希望して来院。』
水様性の鼻汁・くしゃみを主訴とし、目のかゆみなどを伴うときに『小青竜湯』を用いることはあります。もちろん、よく効いてくれる方もいらっしゃいますが、Sさんのように全くといってもいいくらいに効かない方もいるのも事実です。


Sさんは来院時に「貧血はないのに顔色がすぐれず、顔がむくむ。『小青竜湯』を飲むと、胃が荒れる?んだよね。」と言って、自分は昔から胃下垂だとおっしゃいます。実はこの言葉は重要で『小青竜湯』には「麻黄(マオウ)」という生薬が含まれているので胃腸虚弱な方には避けた方がよいのです。そこで、Sさんには『小青竜湯』に似ていますが虚弱者向けの『苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)』を飲んでもらうことにしました。
2週間後、「飲んですぐにくしゃみが減ったみたい。続けて飲んでいるが、症状が軽くなって助かる。」との事でした。「時々、くらっとするめまいがあって地震かなという事があるんだよね。脳神経外科行ってみたけど大丈夫だって。」と言うので、『真武湯(シンブトウ)』も昼一回追加して飲んでもらったところ、「とても手足が温まっていいわ。」とおしゃっていました。以後も好調で、春先〜初夏にかけて毎年薬を取りに来ていただいています。
『苓甘姜味辛夏仁湯』は、手足が冷たく、貧血様の顔をしているどちらかというと虚弱なタイプの方には有効です。花粉症ときたら『小青竜湯』だけではありませんから、ご自分にあった薬を選んでもらってはいかがでしょうか?
2010年07月01日(木) No.429 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(69)〜更年期の高血圧〜


『55歳女性Nさん。52歳頃から内科にて高血圧を指摘され、降圧薬を服用したが、ふらつきがみられ、中止。53歳で閉経した後から血圧が不安定となり、頭痛・肩こり・のぼせの症状が出現したとの事。来院時に一度循環器科を受診することを勧めるが、本人が降圧薬の服用を強く希望せず、漢方薬を試したい希望あり。』
Nさんの当院での初診時の血圧は156/94mmHg。赤ら顔で
肥満ぎみな方で、「とにかく、のぼせやすい。毎日、排便はあるがスッキリ感がない。」と言いながら、家族や職場への不満を延々と訴えていらっしゃいました。
「胸脇苦満(キョウキョウクマン)」(詳細は以前の号)がしっかりと認められ、下腹部のハリ、ストレスも考慮し、まずは『大柴胡湯(ダイサイコトウ)』と『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』を4週間投与しました。「胸脇苦満」はやや軽減しましたが、肝心の自覚症状は変わりません。そこで、「のぼせ」にも注目して、『三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)』に変更してみることにしました。


変更して2日目に多量の排便があり、「顔のほてりが軽くなり、つかえがスーッととれていく感じがした。」との事でした。4週間の服用で血圧もほぼ正常となり、諸症状も軽減したようです。
更年期の高血圧症の中には、しばしば心気症傾向が強く、降圧薬だけではコントロールが困難なばかりか、逆にその薬の副作用に悩まされることもあります。一般的には「柴胡(サイコ)」という生薬が配合されている漢方薬が有効ですが、症状によっては「お血(ケツ)」(詳細は以前の号)を改善する薬も併用したりします。Nさんの場合は、『桂枝茯苓丸』という「お血」の改善薬の代表選手を使いましたが、有効ではなく、「柴胡」に加えて「黄連(オウレン)」という「清熱薬」が配合された『三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)』が効果的でした。このような薬の加減は個人差があり、難しい点もあるのですが、いずれにせよ「柴胡」が配合された漢方薬は、更年期にみられる「動揺性」高血圧には使ってみる価値はあるかと思われます。
2010年06月02日(水) No.424 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(68)〜ストレスを乗り切る①〜


『25歳Mさん女性。学生時代から苦にならない程度の月経痛あり。仕事を始めてから対人関係のストレスも強く、また職場の室温が異常に低く、冷えて月経痛も強くなった。特に月経2日前〜開始2日目まで腰痛や下腹痛が強く、全身にむくみが出る。胃がむかむかして食べたくない。人ごみでは気持ち悪くなる。突き上げるように吐き気がして、生唾が出てくる。3ヶ月間で体重は48㎏から45㎏にやせた。最近は手足の冷えが気になり、睡眠も不良。食欲もなく無理して食べているとの事。漢方治療を希望して来院。』


ストレスという言葉は漢方医学にはありません。しかし、ストレスとからだの変調との関係については東洋医学では独特の考え方にもとづいて古くから取り組んできました。いつもお話しているように身体の状態(証)を捉えることが大切です。例えば、胃腸が丈夫である、疲れやすい、華奢な体格など細かい要素を考えて適切な処方を決定します。
Mさんは「冷え・むくみ」の症状のみから考慮すると、前回お話した『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』が有効と一見思われるのですが、新陳代謝が衰えて冷えが著しい状態になっているうえに、生唾が止まらない(東洋医学では「喜唾(キダ)」といいます)点に注目して、まず「人参」が含まれている『人参湯(ニンジントウ)』を処方してみました。
4週間後、生唾も出なくなり、食欲も出できたようなので、もう一ヶ月飲んでもらうことにしました。その後の月経痛は一進一退であるものの、軽くなっているようでした。
むくみはほとんどなく、人混みに出ても悪心は起こらなくなったとの事です。
ストレスによって起こる症状はいろいろであり一律に述べることはできません。長期間になる可能性も大きいです。Mさんのように一度消化器症状を呈してしまった方はこちらを立て直す必要があります。「急がば回れ」ではないのですが、目先の「冷え」より
も「生唾」を伴う食欲不振が今回のキーワードです。
2010年04月28日(水) No.419 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(67)〜当芍美人〜


漢方の診断は「望(ボウ)・聞(ブン)・問(モン)・切(セツ)」という四診で行いますが、「望診」はその中でも最も重要な診断法です。患者さんを診察室に呼び入れたときの反応の仕方、姿勢、動作、立ち姿、顔色、皮膚の状態などを観察するとともに、全体的なイメージをよく見るわけです。じろじろ見られる患者さん側からはちょっと恥ずかしいかもしれませんが、漢方治療をするには若い女性であろうと「なめるように全身をくまなく観察」せざるをえません(誤解のないように)。この「望診」により、とくに女性三大漢方薬(『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』)はほぼ決まるといっても過言ではありません。


「待てど暮らせど来ぬひとを宵待草のやるせなさ」とうたわれた竹久夢二の、有名なあの絵(立田姫?)がまさに『当帰芍薬散』の「証(ショウ)」であるため、漢方医はこれを「当芍(トウシャク)美人」と呼び、この薬を使用する目標としました。すなわち、色白で、顔は面長、柳腰で立ち姿はすっきり、声は優しく耳当たりが心地よく、しぐさがおっとりしている、「ちょっと手を差しのべてあげたくなる日本美人」と漢方医の大家が称したそうですが、こういったイメージが『当帰芍薬散』にぴったりあう「証」なのです。
『当帰芍薬散』は女性の聖薬といわれ、少し虚弱な女性の身体を温め、「水毒(スイドク)」(体内の水のバランスが悪い状態)をとり、月経を整え、痛みを去り、受胎を安んじるといわれます。「水毒」の症状には、頭痛・めまい・嘔気などがみられることがよくありますから、「当芍美人」は実際にフラフラすることが多いのでしょう。また、この薬は「冷え症」の中でもむくみが出やすい方にも有効です。
みなさんは『当帰芍薬散』の「証」ですか?このコラムを読まれた後は、外来に「自称、当芍美人」が多く来られるかもしれません(笑)。
2010年04月01日(木) No.414 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(66)〜かぜをすぐひく〜


風邪を発症することを「かぜをひく」といいますが、「かぜになった」とはあまりいいませんね。よく考えれば、妙な言葉だと思いませんか?普通「胃潰瘍になった」「怪我をした」といいます。驚くべきことに自分でも気づかないうちに、皆さんは漢方医学的な発想をしているのです。風に乗って、もともと外にあった「邪」が体内に侵入することを「邪を引っ張り込む」ということで「風邪をひく」と表現しているのです。


一般に風邪をひきやすい人は、基本的な体力が不足していて、すぐに疲れる「気虚(キキョ)」(詳細は前号参照)の傾向があります。すなわち、自己免疫力が弱く、風邪だけでなく、いろいろな外からの邪による病気(様々な感染症)にかかりやすいとされます。このような人は、常日頃から漢方薬などを服用して、精神・身体的に丈夫になっておくことも大切です。
漢方医学的にはいろいろな考え方がありますが、まずは、「人参(ニンジン)」「黄耆(ジンギ)」(あわせて「参耆(ジンギ)剤」といいます)を含んでいる漢方薬で体力を補ってあげることをよくします。虚弱ぎみで胃腸があまり強くない場合によく用いる『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』は、その代表格です。風邪症状は軽いが何度も繰り返し、あわせて精神不安・不眠がみられるときは『柴胡桂枝湯(サイコケイイシトウ)』も併用したりもします。また、子供の頃から中耳炎や扁桃腺炎をよくおこして、副鼻腔炎(ちくのう)で耳鼻科通いをしていた経験があり、成人してからも、ちょっとしたことで風邪をひいていつもグズグズするといったタイプには『柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)』などを普段から服用されると、風邪がひきにくくなることは漢方医学的に知られています。
漫然と「かぜには『葛根湯(カッコントウ)』」をお飲みになっている方は、ご自分の体質にあった薬で「未病」(テレビのCMにも出ていますが)に対する策を講じてもいいのではないでしょうか?
2010年03月04日(木) No.408 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(65)〜桃源郷〜


こういう言葉を聞かなくなって久しいですが、古来、楽しく裕福な、夢のような暮らしができる理想郷として描かれているのが『桃源郷』です。山中遠く、迷い込んだその地には桃の花が咲き乱れ、人々皆楽しく、憎み合わず、子供から老人まで共に助け合い、病気もなく長寿を受け入れ、生き生きと仕事をしているという世界のことです。まるで現代社会のパラドックスのようですが、漢方では、桃は長寿の食べ物とされています。


昔の人は桃はとても身体に良く、鬼のような人をおだやかにすると考えていました。「桃太郎伝説」の中で、鬼(=邪悪なもの=病気)を退治してくれるのは、山から流れてくる桃の中から飛び出した桃太郎(=桃の種=「桃仁(トウニン)」)であり、子供に恵まれなかった夫婦(=高齢不妊症)が、桃を食したために(=「お血(オケツ)」が改善)、子供ができたという説は漢方医学を基礎としたありそうな話なのです。「桃仁」は「お血」(詳細は前号を参照)を改善(=血液の滞りを改善)する効果をもつ生薬の代表選手であり、それを配合した『桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)』は最も強い「お血」対策の漢方薬です。この物語は、「桃仁」のもつ強い「お血」を改善する効果により、長期不妊の夫婦が元気な男の子を授かるというストーリーと解釈すれば、昔、邪鬼や動物の霊に憑かれたように考えられ、古書にも「狂人の如く」と記されていますが、まさにそのようにみえた月経痛でひどく苦しむ長期不妊(現代医学では子宮内膜症)の患者を治療(=鬼退治)できたのは、まさしく桃太郎(=「桃仁」)だったのでしょう。
このように、桃から生まれた「桃仁」が女性の疾患の治療では欠かすことのできない「お血」対策の生薬であることを知ると、漢方薬にも少し親しみが持てるのではないでしょうか。
2010年02月04日(木) No.402 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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