タイトル

女性と漢方(188)〜嗅覚障害と漢方薬〜


 嗅覚(きゅうかく)障害は、病態が十分に判明しないこともあって、明確な診療コンセンサスが得られていない疾患です。嗅覚障害は基本的分類としては、においの感覚が失われる嗅覚脱出と、においの感覚が弱まる嗅覚低下があります。また、異嗅症といって、もののにおいを嗅いだときに「本来のにおいと異なるにおいを感じる」障害や「においがないのに、においを感じてしまう」障害のほかに、嗅盲という「特定のにおいだけを感じない」障害や、嗅覚過敏で「においを常に強く感じて不快感が生じる」症状もあります。
 一方、病態の観点からは「気道性」といって、嗅細胞まで空気が届かないためにおこる場合(多くは副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎が原因)や、「嗅神経性」といって嗅細胞自体にダメージを受けて嗅覚低下を起こす場合(ウイルス感染などの感冒後など)、「中枢性」といって脳に伝わる神経伝達路の障害で生じる場合(アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や顔面・頭部外傷など)があります。
 頻度としては、慢性副鼻腔炎が最も多く、次いで感冒後の嗅覚障害、原因不明、アレルギー性鼻炎、顔面・頭部外傷が続きます。


 治療法としては、耳鼻咽喉科でステロイド(点鼻・経口)投与や内視鏡下鼻副鼻腔手術、抗ヒスタミン薬が推奨されていますし、第一選択となります。ガイドラインでは「嗅覚障害に漢方治療は有効か?」という項目で「感冒後嗅覚障害に対する『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』を提案する」と記載されており、実際に臨床研究でも有効な治癒率が得られています(治癒51%・軽快48%)。また、ステロイド点鼻治療が無効例だった患者に『当帰芍薬散』や『人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)』が有効であった報告もあります。これらの漢方治療投与による研究で有害事象が報告されていない点も重要なポイントであると思います。
 嗅覚障害に関しては、まずは耳鼻咽喉科専門外来による標準治療が大切です。その際に漢方薬を併用するかなどは主治医と相談してみるとよいでしょう。ただし、漢方薬の投与で嗅覚障害の改善がみられるまでは数か月以上時間を要する場合が多い点は留意して下さい。
2020年04月28日(火) No.959 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(187)〜口内炎と漢方薬〜


 口内炎は、口腔や舌の粘膜に発症する炎症の総称ですが、最も頻度が高いのはアフタ性口内炎です。発症のメカニズムは、偏食による鉄分やビタミンの欠乏・ストレスや睡眠不足・不正咬合(かみ合わせ)・唾液の不足や口内乾燥・口腔内の不衛生・歯磨き粉成分による粘膜の損傷などいろいろと考えられていますが、正確には解明されていません。
 漢方医学では、このような原因からではなく、生体の免疫反応からアプローチし、「気」が不足している、つまり、免疫力が落ちている場合には、免疫力を補う「補剤」を用い、炎症が盛んに起こって抗病反応がさかん(炎症が激しい状態)である場合には、その炎症を鎮める「清熱剤」を用います。また、この両者が混合した病態の場合には「補剤」と「清熱剤」の両者を使用する場合もあります。また、口腔粘膜や舌は消化管ととらえるので、「脾(ひ)」(漢方では「消化機能」の総称)を補うことで治癒を促進する考え方もあります。
 ライフステージからみると、思春期の口内炎は「清熱剤」である『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』を中心とし、老年期には「脾」を補う『人参湯(ニンジントウ)』や『六君子湯(リックンシトウ)』を中心とすることが多いです。成熟期には、やや補いながら清熱する『半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)』を、更年期には『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』の場合が多いです。


 飲み方のコツですが、漢方エキス剤の場合ならば、湯に溶かして(水にいれてからレンジで温めるのがオススメ)から冷やして口内に含むようにして飲んだり、それを氷にして口に含んだりするとよいでしょう。『黄連解毒湯』や『半夏瀉心湯』を用いる場合には、しみることがあるので、まずしみて痛みが出るかどうかを試してから服用を続けて下さい。
 よく癌化学療法後にみられる多発性潰瘍の場合には、水を飲むのも困難な場合があるので、鎮痛作用と粘膜保護作用のある『甘草湯(カンゾウトウ)』や『桔梗湯(キキョウトウ)』からまず始めてみるのがよろしいと思います。
2020年03月31日(火) No.954 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(186) 〜過敏性腸症候群と漢方薬〜


『17歳女子Sさん。高校入学して列車通学をするようになってから、下痢とガスでお腹が張ることが激しくなり、授業中も下痢やガスで我慢できず、授業を休むこともしばしばあった。いろいろな病院で治療はしたが、漢方薬を試したいとの事で来院。』
 Sさんは、他院にてすでに漢方処方を受けており、少しは良い程度であった様子でしたので、足やお腹の冷えが強い点に注目し、『桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)』と『大建中湯(ダイケンチュウトウ)』を併せて処方しました。一か月飲んで効果を実感されて、「お腹が温かくて気持ちいい」との事で、三か月続けて飲んでもらうことにしました。
 飛び散るような、ヒリつくような炎症性下痢やヒステリー型には『半夏瀉心湯」(ハンゲシャシントウ)』に『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』を併せたもの(『甘草瀉心湯(カンゾウシャシントウ)』という漢方薬になります)などを使いますが、他院で『半夏瀉心湯』が既に処方済みでしたので、先ほどの内容にしてみました。


 過敏性腸症候群には主に腸の異常運動であり、「気滞(キタイ)」(「気」の巡りが滞っている状態)であることが多いため、多くは『桂枝加芍薬湯』をベースにして他剤を加えることをします。ストレスやイライラなどがあると『四逆散(シギャクサン)』、冷えが強いと『人参湯(ニンジントウ)』や『大建中湯』を、ガスが多いと『大建中湯』を加えたりします。
 『桂枝加芍薬湯』が有効な人は消化管が過敏で、痙攣様運動を起こしやすいタイプで、胃の緊張も強いために逆に胃壁は伸展しにくく、食べるとすぐに膨満感がおきて一度に多量に食べられない、そして腸の蠕動運動は亢進するため、すぐに空腹感を覚え、少しずつ頻回に食べる傾向が多いようです。
 過敏性腸症候群には、便秘型・下痢型・下痢便秘交代型・ガス型があり、腹痛を伴うことが多く、特に下痢型・ガス型で症状がひどいとSさんのように日常生活に支障をきたします。通学だけではなく、受験や就職を断念したりするなどの深刻な状況がしばしば見受けられます。
2020年02月26日(水) No.944 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(185) 〜補血剤とは〜


 今回は前回の「補腎剤」に続いて「補血剤」についてお話します。「血(ケツ)」とは「血液」という概念ではなく、東洋医学では血および血によりもたらされる栄養分のことを指します。「血」によって運ばれるべき栄..
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2020年01月29日(水) No.949 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(184)〜補腎剤とは〜


 前回の「補気剤」に続き、今回は「補腎剤」についてお話します。東洋医学の五臓という考え方の一つに「腎」というものがあります。これは西洋医学の「腎臓」とは少し異なり、さまざまなことが言われますが、特に重..
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2019年12月25日(水) No.939 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(183)〜補気剤とは〜


 気力が衰えた状態(漢方では「気虚」といいます)に対応する処方のグループを「補気剤」と呼びます。漢方医学では、気の取り込みは消化器官で行われると考え、消化吸収機能の低下を改善する『四君子湯(シクンシト..
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2019年11月27日(水) No.934 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(182) 〜生薬解説シリーズ 大黄(ダイオウ)・芒硝(ボウショウ)〜


 今回は漢方薬を構成している生薬のうち、「大黄」「芒硝」についてお話いたします。「大黄」は代表的な瀉下(シャゲ)剤(過剰なものを捨てる方剤)で、いわゆる下剤として多用されます。しかしながら、下剤として..
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2019年10月30日(水) No.929 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(181) 〜生薬解説シリーズ 半夏(ハンゲ)〜


 今回は漢方薬を構成している生薬のうち、「半夏(ハンゲ)」についてお話いたします。「半夏」は嘔気や嘔吐によく使われる生薬ですが、「生姜(ショウキョウ)」(いわゆるショウガです)と組み合わせるとその作用..
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2019年09月25日(水) No.924 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(180) 〜漢方薬解説シリーズ 五苓散〜


 今回は『五苓散(ゴレイサン)』についてお話します。『五苓散』は何回も登場している漢方薬ですが、生薬の構成は「蒼朮(ソウジュツ)」「茯苓(ブクリョウ)」「沢瀉(タクシャ)」「猪苓(チョレイ)」「桂皮(..
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2019年08月28日(水) No.919 (山内先生(産婦人科)のコラム)

女性と漢方(179) 〜パニック障害(奔豚気)と漢方薬〜


 『16歳高校2年生の女子Sさん。部活動を終えてから急に胸がドキドキして息苦しくなる。夜間救急外来にて心電図も異常なく、他院にて甲状腺機能も正常といわれ、漢方薬を試したいとの事で来院。』
 部活について詳しく聞くと大会の重圧がストレスになってSさんを苦しめていたようでした。そこで緊張とストレスを取るために『桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)』と『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』を飲んでもらいました。投与後2週間で部活後の呼吸困難はなくなり、呼吸苦は学校行事に数回のみでした。その後、『甘麦大棗湯』は甘くて飲みやすく、練習前に頓用すると調子がよいとのことでしたので『甘麦大棗湯』のみの処方にしました。


 このようないわゆるパニック発作は漢方医学の先人たちは「奔豚気(ホントンキ)」という名前でほぼ同じ病態をとらえていました。患者さんに症状を訊ねると、一様に「おへそのあたりからドキドキが駆け上がってきて、喉を通り過ぎ、最後に顔がカーッと熱くなる」と言います。これは、通常は上から下へ流れるべき「気」が瞬間的に逆流すること(気逆)によって起こるとされています。(子豚が身体の中を走り回っているイメージからこの名前がつけられたようです。)
 「奔豚気」は恐怖や驚きなどストレスが加わって起こります。Sさんにとってはキャプテンとしてチームを率いることがストレスだったようです。なぜ、練習中ではなく練習後に症状が出るのか最初は理解できませんでしたが、最近の研究で胃ゾンデより空気を注入することで「奔豚気」を誘発することが示唆された文献をみて思いつきました。おそらく水分を十分に取れないような激しい練習後の急な水分補充で胃が拡張されることで「奔豚気」のスイッチが入ったのではないでしょうか。
 「奔豚気」の治療には本来は『苓桂甘棗湯(リョウケイカンソウトウ)』という漢方薬があるのですが、エキス製剤にはないので、『苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)』に『桂枝加竜骨牡蛎湯』や『甘麦大棗湯』などを加えた処方がよく使われます。他に『人参湯』や『呉茱萸湯(ゴシュウトウ)』を加えたり、『柴胡加竜骨牡蛎湯』や『桂枝人参湯』なども使われます。
2019年07月31日(水) No.914 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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