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女性と漢方(145)〜産後の精神トラブルと漢方薬〜


『31歳Mさん。第2子の出産後から不眠が続き、突然イライラして物を投げつけたりすることもあり、来院されました。初診時は何もする気にならない状態や、突然悲しい気分になり涙を流したり、家族に暴言を吐くといった感情のコントロールが困難となり、家に一人でいることができなくなり、実家に戻っている状況で、授乳中ということもあり、漢方薬を希望されました。』
 症状によっては心療内科や精神科の受診も必要かと思われましたが、本人の強い希望もあり、まずは『女神散(ニョシンサン)』を処方しました。2週間後に症状はかなり改善したので、調子をみて頓服してもらうように指導しました。また睡眠もとれるようになり、本人の満足度も高かった漢方薬でした。
 産後は急激な身体生理機能の変化と出産前後のストレスや育児ストレスなどが原因となり、約3%に産褥精神病を発症することが推定されています。今回処方した『女神散』は後に子孫が広めた「浅田飴」でも有名な「浅田宗伯」という江戸から明治時代に活躍した漢方医が命名した漢方薬ですが、めまいやのぼせの他に、産前産後の神経症にもよく使われました。
 「女神散」には憂鬱な気分を晴れやかにする(理気)生薬の他に、のぼせなど気が頭にのぼった状態(気逆)も改善する「桂枝(ケイシ)」や「黄連(オウレン)」「黄柏(オウバク)」といった冷やす生薬(清熱薬)も含まれています。さらには補気薬の「人参(ニンジン)」も胃腸を改善させながら元気や気力を回復させるために配合されており、産後などで見た目が元気でも体力・気力が落ちている人には有効です。
 産後のイライラなどを含めた神経症には私は第一選択薬としてよく用いますが、特にのぼせの症状が強く、動悸・めまい・不眠・便秘がある場合には有効です。以前に『女神散』がとても有効であった人が「あの良く効く漢方薬、メガミさんを追加してほしい」と云われたことがあり、女神(メガミ)のようになれる薬という意味でおっしゃているのかなと一瞬思いましたが、『女神散(ニョシンサン)』は読み方を変えれば「女神(メガミ)さん」とも読めるので、単に読み方の違いだと苦笑した症例がありました。しかしながら、本人や周りの家族にとっては、「女神(メガミ)」のような力を与えた薬なのかもしれませんね。
2016年10月05日(水) No.765 (山内先生(産婦人科)のコラム)

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